32年前
ネットでブックオフの本を購入した。出かける機会も減り、また重い荷物を持って歩くのもたいへんな年頃になったので有難いシステムである。書店へ行って本棚をみながら選ぶという楽しみはないが何よりも手軽であるし、普段は目にすることもないジャンルの本を目にするのも新鮮である。もう小難しい本を読む気力も、新たに勉強を始める気力もなくなった今は、ただ気分の赴くままに読み散らかしている。先日、「私が殺した少女」というタイトルに魅かれて原尞の文庫本を購入した。いわゆるハードボイルド小説(懐かしい言葉)で、ちょっと偏屈な探偵が依頼された事件の真相を解き明かすという物語である。 この本は早川文庫で1989年に発行されたもので、その年の直木賞を受賞している。1989年といえば32年前であるが、読み進んでいくうちに世の中の移り変わりの速さに改めて驚いている。1989年といえば昭和天皇が逝去され、1月8日には改元で平成時代が始まる。4月1日からは消費税がスタートし、昭和の大歌手といわれた美空ひばりが亡くなり、そしてそしてなんと秋篠宮様と川島紀子様が婚約発表された年(奇遇?)でもある。私はまだ41歳だった。 当時はまだ携帯電話もなく、留守番電話を録音するということすら少なかったらしく、物語の中では電話取次サービス会社の人とのやり取りも詳細に描かれている。また町の小さな店先にあった赤電話やピンクの電話、駅に並んでいた公衆電話、都会でよく見かけた電話ボックスのある風景なども懐かしく思い出される。今では電話ボックスどころか公衆電話まで見当たらない。そういえば私が携帯電話を持ったのはそれから10年後のことだった。私が子どもの頃は顔をみながら話ができる電話なんて、夢のまた夢かと思っていたが、今では当たり前のこと。今や小学生から高齢者までスマホを持ち、メールやラインで情報を送りあっている。 たかだか32年の間にこうも世の中が変化するのだろうかと不思議な気がするが、この本を手にするまで考えてみたこともなかった。時代小説も好きでよく読むが、それはまるで世界の違う空間へ飛び込んでいくような楽しみがある。それなのに平成元年へ遡っただけでこんなに戸惑うなんて…。 因みにその年の流行語大賞新語部門は“セクシャルハラスメント” 流行語大賞は“オバタリアン” だそうである。