無登録農薬問題(7)
※これは完全にフィクションであり、実際に存在する団体や組織とは一切関係がありません。スタッフはそれぞれのアイデアを持ち寄り、実現する可能性を議論した何度も、何度も・・・・いつも壁に当たった。一ヶ月が経った。Oが言った。「問題の根本的な解決策は、生産現場である農家と消費者をいかに近づけるかだと思うの。つまり、スーパーに並んだ野菜や果物が、どこの誰が作って、どこのJAで選別・箱詰めされ、どこの市場、どこの仲卸を経由して店頭に並んでいるのかが一目でわかればいいのよ。もちろん使った農薬のデータや出荷した日付、市場、仲卸、小売の仕入れ価格も含めて」「つまり、BSE(狂牛病)問題でやろうとしているトレーサビリティ(追跡可能)システムの導入だね。これを生鮮食料品全部にやろうという訳か」「でも、実際にスーパーに並んだ農産物にそれだけの表示をするのは不可能だろう。データの書き換えだけでも毎日大変なコストがかかってしまう」いつも突き当たる壁だった。しかしその日、Oは続けた。「もちろん、データの書き換えは毎日必要だわ。でも、それが自動的に出来るとしたらどう?」「そうか!マイクロチップだ」「そう。JAで選果した時に、1箱に1個のマイクロチップをつけるの。選果場ではデータベースに生産者の名前、栽培履歴などをインプットする。市場ではそれに仕入れ価格、セリの日付を加える。スーパーでも同じことね。最後はスーパーの店頭に電光掲示板を設置しておいて、店頭に並んだ農産物の入っていた箱のマイクロチップのコードを表示するわけ。消費者は自分の買った農産物のコードを控えて帰って、コンピュータに接続すれば、全てのデータが見れるのよ」ついに壁を越えた。「そのコードを印刷して農産物の包装に貼り付けることも可能だな。そうすれば控えて帰らなくてもよくなる」「なるほど。このシステムなら、消費者が疑問に感じた事を直接農家に質問できるし、農家も消費者の生の声が聞ける。インターネットを通じて生産現場と消費者が繋がるわけだ」「そして、よりお互いの理解が深まる事によって、もっと国産の農産物に対する信頼が増す事になるのよ」「問題は、そのマイクロチップを含むシステムの費用を誰が負担するかだな」「それはそれほど問題じゃないだろう。データベースは農水省が管理するのが当然だろうし、マイクロチップは回収して再利用が可能なのだから流通業者に負担させられるだろう。たとえばイオングループがこのシステムを採用すれば、そこへ買いに行く消費者が増えるだろうから、費用はすぐにペイできると思う」最後にチーフが言った。「ようやくトンネルの先に明かりが見えたな。もちろん、このプロジェクトを完成させるためにはまだまだ多くの困難があるだろう。しかしこれで日本農業は救える。みんな、よくやった。」こうして「日本農業再生のシナリオ」は実行に移される事が決まった。後はいつ無登録農薬の摘発を実行するかという問題だった。何かが犠牲にならなければならない。生産量の多いミカンとリンゴの時期は、影響が大きすぎるために避けられた。次に多いイチゴとスイカの時期も外された。選ばれたのは7月20日だった。そして新聞発表は8月20日と決まった。・・・それはちょうど梨の出荷が最盛期を迎える季節だった。♪エンディングテーマ(笑)※これで「無登録農薬問題」は全部終わりです。今回は小説形式に挑戦してみました。さあ、現実にはこう上手くいくかどうか・・・でも、書いてて結構楽しかったです。