カテゴリ:青春時代「アメリカンシネマ」
ミュージカルを辿って綴ってきましたが、何故か忘れていました。
ちょっと特異な作品だから、ミュージカルのカテゴリーからはみ出していました。 ミュージカル映画というより、ミュージカルを作る人の映画? 「オール・ザット・ジャズ」は監督である、“ボブ・フォッシー”その人の自伝的映画です。 と言っても、僕はこの映画を観るまでボブ・フォッシーについてはほとんど知りませんでした。 ライザ・ミネリの「キャバレー(’72年)」で、アカデミー監督賞を獲得していますが、この頃の僕は、アメリカンニューシネマにどっぷりはまっていて、ミュージカルには興味を持てなかったので印象があまり無いのです。 では何故この時は興味があったのかというと、80年の『カンヌ国際映画祭』でグランプリを取ったからです。 80年のカンヌと言えば、黒澤明の「影武者」がグランプリを取った年で、つまり二作同時受賞だったんですね。 「影武者」の方は日本映画ファン待望の作品で良く知られていたのですが、「オール~」の方はまったくノーマークで、二作受賞と言うことで「影武者」の価値が下がってしまったような気がしてちょっと不満でした。 それで、はじめは少し斜に構えて見始めたわけですが、すぐにボブの才能が伝わり目を見張りることになります。 ボブ・フォッシーはもともとダンサー兼振付師で、徐々に舞台演出などにも携わるようになり、舞台作品の「スイート・チャリティー」で映画監督デビューを果たし、「キャバレー」でオスカー獲得と才能の幅を広げていった人です。 なのですが、天才にありがちなことですが、私生活はめちゃくちゃ。 そのめちゃくちゃぶりを描いたのがこの作品です。 絶えず咳をしながらも離さない煙草。 シャワーを浴びている時も、病院で診療している時も。 この煙草の吸い方がかっこよくて、僕がなかなか煙草をやめられなかった遠因になっています。 たぶん主役のギデオン役のロイ・シャイダーの吸い方なんでしょう。 「ジョーズ」の時も同じ吸い方をしてましたから。 印象的なシーンの一つに(物語はフェリーニ風にいくつか錯綜して進行します)フィルムの編集の仕事も請け負っていて、それが全然進まず、依頼主を怒らせる、というのがあります。 何度も素材のフィルムを見るだけでさっぱり手を出そうとしません。 依頼主はそのつどイラつき怒るわけですが、それがある日ひらめいて編集をします。 出来上がった作品の素晴らしさに、依頼主は涙を流して喜ぶと言うくだりです。 僕も経験がちょっとあるのです。 8ミリフィルムで映画を撮っていた話は以前どこかでしましたが、8ミリと言えどフィルムの編集はハサミで切ってテープで繋ぐと言う作業をします。 そのフィルム数こまの長さの違いで出来が変わってくるんですね。 そしてどのシーンをどう繋ぐかによっても、シーンの意味を根底から変えるぐらいに違ってきます。 映画をやっている人なら誰でも知ってますが、モンタージュ技法と言う奴です。 映像は虚構だと言われるゆえんです。 見るものはすっかり作り手に乗せられて見てしまいますが、どこまで作りこんでいるかはその人の才能によるものです。 ボブの目論見は細部にわたり、深遠に根ざしています(と推測されます、すべてを解きほぐすだけのレベルに僕の方が達してないため) 見るもののレベルに応じて、だんだんとはがされていく作品は長く楽しめます。 ちょっと観念的ななってしまいましたが、最後にラストの楽曲について。 ギデオンは最後に摩訶不思議な踊りを完成させますが、そこに使われた曲がサイモン&ガーファンクルの『バイバイラブ』 かなりアレンジされているので、最初はこの曲だと気づかなかったほどです。 そのイントロ部分に魔法が掛かっていて、脳みそに深い溝が刻まれてしまいました。 後日、僕はダンスの方に少し関わる運命になりますが、お手伝いで舞台に接するたび、必ず頭の裏側ではこのリズムが響いています。 舞台を見る目はボブ・フォッシーになっていたかもしれません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年11月22日 08時28分19秒
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