|
カテゴリ:音楽・テレビ・映画・小説
書きっぷりがセンセーショナルで,最初に社会保障費の増大にかかる絶望的な試算を示したうえで,それを回避するための処方箋を解説しています. 本書で興味深かったことは医療産業の特殊性の部分です. 医療はあらゆるサービスのなかで最後の聖域とされてきました. かつては,効率化,コストカットのために手を付けるなどということはタブー視される側面もあったように思います. その理由の一つとして考えられるのが,日本の医療産業は,参入規制が非常に厳しいことです. 医療産業の中心である病院の開設は,自治体や医療法人などに限られており,その限られた病院のベッド数も,「病床規制」として,行政に完全にコントロールされています. つまり,医療産業は,「価格」と「参入」という産業として最も重要な要素が,両方とも規制されているのであり,「競争」による切磋琢磨で,創意工夫や技術革新が起きる余地が少ないと考えられます. それにもかかわらず,こうした厳しい規制が維持されている主な理由は,医療の「平等性を保つ」ということにあります. この場合,保たれているのは当然ながら,患者間の平等ではなく,医療機関の間の平等です. しかし,「平等性を保つ」ためには,質や効率性の高い医療機関の方に基準を合わせることはできませんから,質や効率性の低い病院や開業医でも経営が成り立つように,「護送船団方式」によって,一番低いところに合わせて平等な料金が設定されます. しかし,これではサービス水準の低い病院が開業医が,相対的に高い料金を付けることになってしまいますから,患者の不満が募ることになるでしょう. そういう理由もあってなのでしょうか,日本では医療保険に対して多額の公費投入が行われ,患者の自己負担や保険料を非常に安くして,患者からの苦情が出にくい構造が作られています. もちろんそれ以外にも,医療機関には,消費税課税をはじめとする税制面での優遇や,施設整備に対する各種補助金,助成金も多数存在しており,医療産業には公費による手厚い「産業保護」が行われているのです. ------------------------------ 中村(2013)で検討したのも,まさにこの医療の特殊性にあたる部分です. 医薬品の流通を対象にしましたが,護送船団方式として,地域薬剤師会が出現して政治力を発揮していました. 医療機関の平等性に焦点を当てるなら,一番質や効率性に劣る部分を基準にすることは理解できます. これを仮に患者の平等性に焦点を当てたとしたら,質や効率性の高い部分にリソースを集中的に投入する一方,それらが低いものについては廃止も含めてある程度の効率性を重視する姿勢もありうるのではないかと思います. 費用対効果を常に考えない財政支援は,回り回って将来世代への医療費負担として転嫁されていきます. このことをあらゆる世代が本気で考える時が来ていると感じます. お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.10.18 00:29:57
コメント(0) | コメントを書く
[音楽・テレビ・映画・小説] カテゴリの最新記事
|