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カテゴリ:音楽・テレビ・映画・小説
自身の研究テーマにも関連する内容です. 商店街の形成プロセスを紐解き,行政や当事者,大型店などの思惑を踏まえながら論じています. 商店街の比較的歴史が新しいことがわかります. 商店街の胎動期を示した1920~1945年は以下のように整理されます. ------------------------- 「商店街」という理念には,個々の小売業者を専門店化し,それを地域ごとに束ねることで,高い消費空間を提供しようという明確な目的があった. また,その空間に娯楽性を付与することで,コミュニティの人々がそこに気軽に集まりうる空間に仕立てようとする意図もあった. それは,商店街という空間を通して,新しい公共性の基盤を作り上げる試みだった. そのうえで社会学者の奥井復太郎は,「商店街」という理念を,繁華街だけでなく,住宅街の近傍地域に広げようとした. わたしたちが商店街と聞いて想像するのは,中心街のものだけではないだろう. 住宅街の中にある10軒程度の商店街もイメージとしてあるはずである. 住宅街の中にある商店街―生活必需品の販売が中心である商店街―,それが,この時期に構想されたのである. このように,商店街は,伝統的な存在とみなすことはできない. スーパーマーケットやショッピングモールが「新しい」存在である一方で,商店街が「古い」存在とみなされることがあるが,実際のところ商店街は,20世紀の社会変動に合わせて作られた「新しい」存在であった. また,注意すべきは,商店街という考えが,百貨店などと同じ時期に出てきて,その要素を取り入れて形成されたことだ. ただ,こうした商店街の形成プロセスは,戦後になって,多くの人に忘却された. 商店街を形成する零細小売商は,自民党の保守政治と結び付くことで,既得権を固守しようとする「地域ボス」としてふるまう存在であるとみなされた. ------------------------- 商店街研究をする際にも第二次大戦後の動きを議論の出発点に据えることが大きいと感じます. でも,戦前,戦中の動きにも目配せしなければ,そもそも商店街がどのような理念のもとに形成されてきたかが不明なままです. 商店街の基礎が戦後に引き継がれてきたならば,誕生当初からの歴史を踏まえることが必要です. そういう意味で,新書でありながら,時間軸を長くとってあることで,現在の商店街の意義や課題を考えさせてくれる良書と感じました. お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.06.20 09:19:08
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