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カテゴリ:古典
日本語の文字表記については、埼玉県稲荷山古墳出土の鉄剣銘「辛亥年」(471年)や和歌山県隅田八幡宮の人物画像鏡銘「癸未年」(443年か503年)の研究から、5世紀には、漢字の音を借りて表記する方法が確立していたという。「獲加多支鹵大王」を「わかたけるのおおきみ」(=雄略天皇)と、「意柴沙加宮」を「おしさかのみや」と読ませる如くである。ほかにも、難波宮跡で発見された652年以前の木簡の「皮留久佐乃皮斯米之刀斯」(はるくさのはじめのとし)という文言の記録や正倉院文書の分析を通じて、7世紀には、この表記法が実際に使用されていたと確認できる。
この表記法を万葉仮名(まんようがな)と呼ぶのは、「古事記」(最古の歴史書)・「日本書紀」(最古の正史)・「万葉集」(最古の和歌集)に用いられたから。これらは文庫本で出ているが、自力で読み進めるのは大変だ。大学で書籍講読の授業でも受けるのでなければ、一般の人がその文章に触れる機会はほとんどないのではなかろうか。 漢字の音を借りると言っても、日本語には音読みと訓読みがあるので、パターン化はできない。音読みには「以=い」「呂=ろ」「波=は」とか、「安=あ」「楽=ら」「天=て」のように一字一音対応の単純なものだけでなく、「信=しな」「覧=らむ」「相=さが」のように一字二音対応のものがあるし、訓読みに至っては「慍=いかり」「下=おろし」「炊=かしき」のような一字三音対応のもの、「嗚呼=あ」「五十=い」「可愛=え」「二二=し」「蜂音=ぶ」のような二字一音対応のもの、「八十一=くく」「神楽声=ささ」の如き三字二音対応のものがあったりと、ややこしいことこの上ない。 ただ、高校教師として日本史や国語の指導をした経験から言えば、「万葉集」に見られる戯書・戯訓の話は、生徒にかなり受けた気がする。上記の例で、「二二=し」「八十一=くく」となるのは「2×2=4」「81=9×9」から来たものだし、「蜂音=ぶ」は蜂の羽音(ブブ、ブー、ブーン)の表現であるのは、少し頭を使えば分かる。「馬声=い」と読ませるのは、当時の人々が馬の鳴き声を「ヒヒーン」ではなく「イイーン」と聞いていたからではないかと、橋本進吉が「駒のいななき」(橋本進吉博士著作集4『国語音韻の研究』所収)という一文の中で指摘している。従って「馬声蜂音石花蜘蛛荒鹿」は「いぶせくもあるか」と読むことになるのだが、心が晴れないという意味の「いぶせし」をこのように回りくどく、しかも五月蠅そうな動物が立てる音を借りて表現するとは、いかにも戯れという感じがするではないか。 ワタシの部屋は数日来の寒波で水道管が凍結し、台所やトイレの不便に悩まされたが、今日は暖かくて、やっと水が出た。こんな時に「山上復有山、山上復有山」という冗句を言うぐらいの心の余裕は、無くさないでいたいと思っていたりする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019年12月20日 15時56分36秒
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