627873 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

Washiroh その日その日

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2006.11.16
XML
カテゴリ:本好き
 遠藤征行さんに品川の『グランド・セントラル・オイスター・バー&レストラン』でごちそうになった翌日のこの日、ずっと家にいて仕事をしていた。一日はあっという間に過ぎ去り、その割には原稿がはかどらず、やれやれ困ったぞと思いながらカミさんと昨日食べた牡蠣の話なんぞをしたのだった。「ブルーポイントって本当においしかったわね」「そう、あれはうまかったなぁ。牡蠣フライもとろっとしてうまかった」とかなんとか。

 征行さんに感謝のメイルを送り、次回をたのしみにするやりとりがあった。
 気になるのは翠さんからのメイルで、からだの調子がよくないらしい。生牡蠣の食べ過ぎていどのことならいいのだが、心配。

 本の整理がつかないまま時が経ち、本棚の本はびっしりと平積み状態。その惨たる情景を目の前に、ふと清岡卓行のことに思いが飛んだ。
 いま心に浮かぶ作家は、あるいは詩人はだれ? と聞かれたらこの人の名を挙げるようになってからもうずいぶん経つ。
 今年の6月、逝去。
 しかし引っ越すに当たりどこへしまったのだったか、あの本が目の前にない。あの詩集も、ない。
 思いついて検索してみた。すると、思いのほか多くの人が清岡卓行について書いている。なかに『平凡な情景』という詩を載せているブログがあった。
 この人も清岡卓行を心に留めているのだろうと思う。

 読み終え、そういえばと旧いノートを探ったら、好んで繰り返し読んでいた1篇が出てきたので書いておこう。『一瞬』(思潮社 2940円)という比較的最近(2002年)の詩集に収められている詩で、初めて読んだときには思わず目頭が熱くなった作品だ。

  ・・・  ・・・  ・・・  ・・・  ・・・


   春の夜の暗い坂を

 春の夜の暗い坂を
 あらためて長く感じながら降りはじめると
 坂の下の
 豪邸が消えたあとの空地を隔てて
 明るく高く
 無人のプラットフォームが浮かんで見えた。

 郊外の小さな終着駅。

 車輪の響きをしだいに静かにさせながら
 4輛連結の電車が入ってくる。
 乗客用の扉から現われた人たちは
 改札の南口か北口へ。
 両端の扉からは
 運転手と車掌が現われ
 向かいあって歩き やがてすれちがう。
 連結車体はそのままで
 先頭を後尾に
 後尾を先頭に変身させるためである。

 プラットフォームがまた無人となり
 がら空きとなった電車の客席が
 ひときわ明るい。

 駅の向こう側は自然公園。
 そのなかの斜面の小高いところに立つ
 数本の桜の木が
 不気味にも見える闇に囲まれ
 咲きはじめたばかりの花の白さを
 ほのかにも浮かびあがらせている。

 郊外の小さな始発駅。

 そうだ
 なにかの夢が誘われている。

 わたしは坂をほとんど降りたころ
 日常の生活から
 遠く遙かに飛び去りたいという衝動を
 微かながらまったく久しぶりに覚えた。
 そしてふと思い出した
 少年の日に
 こわごわと描いた世界への放浪を。
 青年の日に
 寝床のなかで憧れた怒りの自死を。

 わたしは駅のすぐ傍らに立っている
 中年からの古い友
 ひなびた郵便箱にゆっくり近づいた。
 そして 世界にも通じている
 その岩乗な口のなかに
 わたしはいましがたけぶった
 未熟な過去の記憶二つと
 きのうわたしを訪問してくれた
 若い後輩へのお礼の手紙一通を
 いっしょにして
 ぽとりと落とした。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006.12.24 13:40:52
コメント(0) | コメントを書く


PR

カレンダー

日記/記事の投稿

バックナンバー

2024.06
2024.05
2024.04
2024.03
2024.02

プロフィール

アリョール

アリョール

カテゴリ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

ニューストピックス

フリーページ


© Rakuten Group, Inc.