サイモン・ベケット著『法人類学者デイヴィッド・ハンター』
5月の半ばごろから探していた本をようやく手に入れた。 サイモン・ベケット著『法人類学者デイヴィッド・ハンター』という文庫本だ。 「人間の身体は、死後4分ほどで腐敗を始める。かつて命をつつんでいた肉体も、こうして最後の変容のときを迎えるのだ」と書き出される科学捜査もののミステリーである。 この本を読みたいと思い、行きつけの本屋に行ったが、ない。 店員に在庫を調べてもらってもないので版元から取り寄せるかと考えたが、このときはまだよそに行けばあるだろうとタカをくくっていたので取り寄せはしなかった。 その後、数軒の本屋を回り店員にも尋ねたが、さっぱり見つからずネットで探ってみた。 その日にはアマゾンに1冊だけあったが、これが中古本で定価の3倍を超える値段が示されている。 ここでやっと気がついた。 そうか、品切れ、あるいは絶版なのか。 定価の3倍以上という中古本を買うのも業腹だから図書館で借りることにした。 予約の手続きをすると5人ほど先約があり、そうなると順番が回ってくるのはずいぶん先のことになる。 ま、今すぐ読めない以上しょうがないなと予約することにした。 それから2か月ほど経った先週、図書館に行ったら先約者があと1人と教えられた。 それは楽しみだと帰ってきたのだが、ことは急展開する。 家族がそろった夕食時にこの話を出したら蓮太郎くんが携帯電話を取りだし、ささっと検索。 「あるよ」と見せてくれたのがアマゾンの当該ページで、定価の2倍以下の値段で出ている。 ありがとうといい、食事を中断してパソコンを開く。 2か月前とはちがって中古本が3冊提示されていた。 ほかの2冊はやはり定価の3倍前後だが、蓮くんが教えてくれた1冊だけ2倍以下だ。 直ちに購入した。 殺人事件の検屍を軸にしたミステリーはたくさんあり、検屍官シリーズと名付けられたシリーズもあるくらいだ。 もっとも、この『法人類学者デイヴィッド・ハンター』を読みたくなったのは米国のテレビドラマ・シリーズ『CSI』を好んで見ていることがきっかけだったようだ。 最初は『CSI ラスヴェガス』、のちに『CSI マイアミ』及び『CSI ニューヨーク』という3つのシリーズが同時並行的に進むシリーズで、ま、かなり有名、ミステリー好きならずともよく知られている。 ぼくが見始めたのは2010年だろうと思うが、ずいぶん遅かった。 最近、最初のシリーズ『CSI ラスヴェガス』(邦題『CSI 科学捜査官』)がシーズン1の第1回目から再放送されることになり、最初からは見ていなかったので通して見てみようと思ったのだ。 すると、このシーズン1がべらぼうに面白いではないか。 シーズン2も面白い。 現在シーズン3が放送中で、やはり面白い。 初期の『CSI ラスヴェガス』が面白いのは、科学捜査のプロセスを丁寧に描いていくからというのに尽きる。 そういうシリーズなのだから科学捜査のプロセスを描くのは当たり前なのだが、長期シリーズなので、またマイアミやニューヨークといった異なる舞台の同系シリーズが始まったこともあり、趣向の凝らしかたがさまざまに変化してきたため、科学捜査そのものを地道に描く作品が減ってきたのだ。 死体と虫の関係を克明に描くのがこの『CSI ラスヴェガス』の初期作品群の特長で、ウィリアム・ピーターセン(William Petersen)が演ずる主人公役のギル・グリッソム主任が無類の虫好きなのだ。 ウジ虫が死体の状況を知らせる話はほかでもよく出てくるが、死体を食べる虫のエピソードまで収めるミステリー・シリーズはなかなかない。 『法人類学者デイヴィッド・ハンター』を読みたくなった5月半ばのころには著者サイモン・ベケットの名は知らなかった。 行きつけの本屋でたまたま手に取ったのが最新作『骨と翅』で、冒頭の数行と解説からサイモン・ベケット作品をすべて読もうと思わせられたのだった。 先週のことだが、探し回って手に入れられなかった文庫が到着したのだ。 しばらく置いておき、きのうから読み始めた。 細部の描写がうまく、おもしろい。