カテゴリ:鑑賞全般
日曜日の午前10時台に電話が鳴る。
ふとある友人の顔が浮かんだ。休日、八王子方面に来ることがあるから機会をみて会おうじゃないかと話していた男で、この間の電話では来るたびにそば屋の徳兵衛で一杯呑むといっていた。 また、妹が連絡してきたかなとも思った。 以上が受話器を耳に当てるまでの4分の一秒間ほどに考えたことだった。 そのどちらかを想定した声と口調で「もしもし!」と元気よく答えたら、やはり元気よく「もしもし!」と返ってきたのは川島民親くんの声だった。 おう、きょうは早いじゃないか、どした? 思わずそういってしまったのは彼が休日に電話をかけてきてくれるのはたいがい夕方だからだ。 「いや、こっちはもの凄い雪でね」。 そうか、畑仕事どころではないわけだ。 だから火鉢に火をおこし、勅使門と勝手に呼んでいる自宅正門(修復したばかり)を開け、座敷に座ってものを書き始めたという。 「ちょっとした短篇を書いているのだが、これがおもしろくてさ」。 いいことだ、どんどん書けよ。 続けて、ムラの話ばかりだけどねという。民親くんの生まれ育った五個荘塚本のムラは古代からの空気を囲い持つしっとりと落ち着いたところ。彼自身のルーツを描くことにもなり、ますますいい。 日曜日の午前中、障子の向こうに雪降る庭があり、すっきりと片付いた座敷のかたわらに火鉢が置かれている。大きな座敷机の上には原稿用紙が拡げられ、本が積み重なり、眼鏡をかけた民親くんが座っている。 4冊の古典を並行して読んでいるそうだ。 『源氏物語』は二度目。『平家物語』も二度目。『日本書紀』も二度目だがすでに読み上げた。 「それから日記ものだな。蜻蛉日記とかさ」。 民親くんはいま、それらすべてを音読しているのだ。 いいだろうなぁ。 ぼくも真似して、日記ものではむかしよく読んだ『和泉式部日記』を音読しようか。 声を出して読むのは気持ちがいいし何よりおもしろ味がよく分かる。なにも古典でなくてはいけないということはないけれど、たぶん古典を読み続けている民親くんはたとえば『源氏物語』の音読にごくすんなりと入っていったのだろう。 民親くんとの電話を切って間もなく、ラジオニュースを聞いた。 きのうに続いてきょうも強風のためにあちこちで電車が運行停止となっているそうだ。 東京には、雪降る庭も勅使門も何もない。 街も人々も、もちろんぼく自身も、風に吹かれてただただ立ちすくむばかりである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.02.24 19:32:42
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