上橋菜穂子「精霊の木」
ここ数年代表作「守り人」シリーズの映像化や新作の発表により再評価、再出版が盛んとなっている著者の処女作。
長らく絶版となっていた作品だが、昨今の盛り上がりにより復刻されたようだ。
大凡三十年前の作品とあって、氏としては恥ずかしさもあるようだが、それが信じられない程の読書体験となった。
文庫本で約三百四十頁という分量で、且つ発表時に添削を受け原稿用紙にして百四十枚を削ったとは思えない程に豊かな内容。
先住民の歴史、実情、印象を悉く変え殺戮してしまう強力な移民を描いたこの作品は、SFファンタジーであり乍ら、現代人が如何にして現代を築いたのかを見事に描いている。
氏の作品はいつもどれも愛に溢れている。
しかし同様に、いつもどれも傷に塗れている。
読後は痛みを伴う感動が揺蕩うのだ。
読後感はまるで違うがジョージ・オーウェルの作品が思い起こされた。
正しく過去の上に成り立っていたいと、そう思った。