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テーマ:メディアって何だ!?(204)
カテゴリ:メディア
▼調査報道
メディアにとって、権力側の発表に頼らない調査報道は理想である。だが強制捜査権もないメディアが、証拠をつかみ裏づけを取り、それを報道するのは、並大抵のことではない。 某国立大学をめぐる製薬会社絡みの汚職疑惑でも、私は多くの製薬会社や医療機器販売会社に取材した。医療機器を某国立大学に納入している業者の一人は、自分の会社も賄賂を渡していることを明らかにした。そのようなことは、業界では常識であるという。 どの医療機器や薬品を仕入れるかを決める職務権限のある教授のところには、業者が群がる。その中で自社の商品を購入してもらうには、生半可な接待では十分ではないともいう。国立の大学病院に自社製品の納入実績があれば、他の病院にも売り込める。そのため、損得を度外視して競争する場合もあるのだという。 しかしそのような話を聞いても、証拠がなければ、記事にはできない。通常、内部告発者が証拠を持ってきてくれないかぎり、日の目を見ることはまずないのである。 共同通信の先輩記者が、調査報道の難しさを教えてくれたことがある。ある会社の悪事を記す書類を、その先輩記者が内部告発者から手に入れた。裏づけを取り、先輩記者はそれを基にスクープ記事を書いた。 当然、その会社から事実無根であると抗議がある。その会社から幹部が数人、なぜ根拠もないデタラメ記事を書いたのかと、共同通信に怒鳴り込んできた。応対に出た先輩記者が「事実無根ではない、これが証拠だ」と言って、内部告発者がもたらした書類を示した瞬間であった。抗議に来た幹部は「わかりました」と言って、きびすを返して帰っていった。 その先輩記者は「しまった」と思ったという。その会社の幹部は抗議に来たのではなかった。いったい誰が会社の情報をばらしたのかを知りたかっただけなのだ。先輩記者が示した書類は、内部告発者が誰であったかを知るには十分であった。おそらく内部告発者は特定され、会社を首になったであろう、と先輩記者は言っていた。 某国立大学に医療機器を納入しているその業者の人も、私にこう言った。「仮に私が、大学教授が賄賂を受け取っている証拠をあなたに渡して、それが記事になったとしましょう。私は会社を裏切ったことになるわけですから、路頭に迷うことになるかもしれない。私には家族もいます。共同通信は私たち家族の面倒をみてくれるとでも言うのですか」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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