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テーマ:メディアって何だ!?(204)
カテゴリ:メディア
▼黒三ダムの悲劇6
昨日の原稿の解説です。 (解説) 第一段落: 24年前の原稿では具体的な場所が記されていなかった。黒部川ダムといっても第一から第四まである。最初の段落で、どのダムの建設の話なのかを明記しないのはよくない。しかも、いきなり吉村昭の小説『高熱隧道』が出てくる。ある程度有名な小説だが、読んでない人も多いので、こうした本を最初に持ってくるときは、書いている当時よほど有名な本でなければならない。すでに出版されて何年も経っている本を、最初の段落にもってくるのは好ましくない。 第二段落: ここで初めて吉村昭の『高熱隧道』をもってきた。ポイントは次の「実際に工事に従事したのが、どういう労働者であったかは記録にほとんど残っておらず、わかっていなかった」の部分。吉村昭の小説や当時の新聞にも朝鮮人労働者がいたことは書かれている。だが、実際どれだけの朝鮮人労働者が働き、亡くなったかは記録がないのが実情である。この点を指摘しておかないと、「証言により大半が朝鮮人労働者であったことがわかった」というニュース性が弱くなってしまう。 第三段落: ここでは実際の生々しい証言を紹介して、原稿全体の意義付けをしている。ここまでの三段落が新聞記事のリードと呼ばれるもので、必要な要素と原稿の意義付けが盛り込まれていなければならない。つまり、ここまでがニュース価値があるとして勝負しなければならないところである。 問題点: ・このリードの問題は、いったいどこまでが新事実であるのかわからないところだ。第二段落で記録がほとんど残っていないことを強調しているが、初めてわかった事実があいまいになっている。実はこれが、24年前に原稿を完成させることができなかった最大の理由でもあった。 ・ここでいちばん欲しい新事実は、亡くなった人のうち一体何人が朝鮮人労働者であったか、であろう。また、一体何人ぐらいの朝鮮人労働者が徴用され、うち脱出した人や怪我をした人が何人いたかがわかれば、さらにいい。残念ながら証言からは具体的な数字が出てこない。唯一、雪崩で亡くなった84人のうち60人ぐらいが朝鮮人労働者であったという証言ぐらいだ。実際の朝鮮人労働者の証言から衝撃の事実が出てくれば原稿にしやすいが、そこまでには至っていない。結局、手元にある証言から書ける原稿はここまでであった。 ・もう一つ、出稿できるチャンスがあるとしたら、地元の郷土史家が黒三ダム工事の真実を知ってもらいたくて、証言を集め本や冊子などを作成したときであろう。その人に焦点を当てて原稿にすることはできる。当時の私もそういう人がいないか探したが、見つからなかった。 結論としては、ニュース原稿として配信するには、ちょっと弱かったかもしれない。 24年前、私は原稿を完成させることができなかった。しかし世の中には、ちゃんと真実を伝えていこうという人が必ずどこかにいるものである。その後1992年に、内田すえの、此川純子、堀江節子の三名が、高熱隧道に携わった朝鮮人の足跡を探究し、雪崩事故に遇った朝鮮人遺族を尋ねて『黒部・底方(そこい)の声-黒三ダムと朝鮮人』(桂書房)を著わしている。そこには、朝鮮人労働者が従事した過酷な労働の実態も描かれているという。24年前にこの人たちに出会っていれば、私の原稿も日の目を見ることができたかもしれない。今では絶版状態になっているこの本が、当時の日本人によって機械のように扱われ、使い捨てにされ、歴史からも抹殺されつつある朝鮮人労働者の魂の供養になればと願うばかりである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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