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カテゴリ:金曜日のラララ
前回までの話はこちらです。
金曜日のラララ (1) 金曜日のラララ (2) 女達が泣いている。 博志は車に排気ガスを引き入れて死んだ。 大量の風邪薬とアルコールを飲んで。 車に残っていたCDはジャズ。 博志が、人生の最後に聞いていた音楽がジャズとは驚きだ、と麻美は思う。 浩二がポツリポツリと言葉を落として説明する。 電話が掛かってきた、変だった、ヤバイと思った。 だから車で一晩中探したけど、見つからなかった。 博志の遺体が見つかったのは、思いも寄らぬ公園の駐車場。 焼香を済ませた者達が、小さなグループを作って、長いお経が終わるのを待っている。 黒い喪服。 まるで制服のようだ。 集まって、小さな声で話して。 髪に白いものが混じり始めて、額が後退するものもいて、年取った高校生。 自分の変な形容に、麻美はクスリと笑う。 博志は人気者だったから、葬式に来た同級生の女も多い。 そのほとんどが泣いていることに、麻美は違和感を持つ。 あなたたち、博志とそれほど親しかったっけ?。 目を赤く染め、ハンカチを濡らし、鼻をすすりあげるその行為は、純粋に喪失の悲しみの発露のはずだ。 高校時代は既に遠い昔。 一年に一回開かれる同窓会。 「元気だった?。」で始まり、「じゃぁまたね。」で終わる。 麻美ですら、仲間達と行う忘年会で一年にもう一度、博志と会う程度だった。 だから麻美にはどうしても、博志の死を実感することが出来ない。 今年の終わりにまたみんなで集まったら、博志もいつものように片手をあげて「よう。」と言いそうな気がする。 麻美は、遙の電話以来、一滴の涙も流せずにいる。 なのにどうして他の女達が泣けるんだろう。 まるでお涙頂戴の安手のドラマを見ているような気がして、麻美の胸に小さな怒りが湧く。 そしてその自分の狭さに、嫌気が刺す。 ひょっとしたらあの中に、密かに博志を思っていた女がいるかも知れない。 人気のあった男に思いを告げることなく終わった恋。 今はもう儚くなってしまった思い出の高校時代に、思いを馳せているのかも知れない。 博志は実に、女達がそういう役を与えたくなる男だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年06月08日 22時03分00秒
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