ハードボイルドとは
今日も三日間の日記を書くことになる。精勤である。ばあチャルさんが、逢坂剛の「砕かれた鍵」というハードボイルド小説を評している。その中で、ばあチャルさんは「ハードボイルド」というジャンルを下記の様に説明してくれている。>非情な運命を非情な心で受け止め、淡々かつ冷ややかにたどっていくのがハードボイルドというジャンルである。一般的にはその通りなんだけれど、ひねくれものの私としては、その定義に、少しひねりを入れたいと思う。その手始めにまず、一般的に、「ハードボイルド」と言うものが、どう定義されているのか?を検索してみた。■ 先ずMerriam-Webster Online Dictionary で調べてみよう1 a : devoid of sentimentality : TOUGH a hard-boiled drill sergeant 感傷性に欠けた タフなb : of, relating to, or being a detective story featuring a tough unsentimental protagonist and a matter-of-fact attitude towards violence タフで感傷的で無くて暴力に対して現実的な対応をする主人公が登場する探偵小説 ■ クラシック映画用語事典では、下記の様に説明されている。http://www.geocities.co.jp/Hollywood/5710/cla-dictionary.html【ハードボイルド / Hardboiled】ハードボイルドとは英語では堅くゆでたという意味で、ゆで卵などに使われるが、この言葉が文学の世界でもダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラー、アーネスト・ヘミングウェイなどの小説に見られる探偵や警官、または職業犯罪者たちを主人公に感情を排除したクールで乾いた文体を特徴とした文学に使われるようになる。ハメットとチャンドラーたちの活躍によってハードボイルド小説は市民権を獲得し、ハメットが創造した一匹狼の私立探偵サム・スペードの活躍を描く『マルタの鷹』(41)の映画化によってハードボイルドの世界は映画にも進出する。この作品でスペードを演じたハンフリー・ボガートは孤独で冷徹ながも正義感溢れる新しいタイプのヒーローを演じて新境地を開拓し、引き続きヘミングウェイの小説を映画化した『脱出』(44)では自由のために戦う船長、チャンドラーの小説の映画化『三つ数えろ』(46)では私立探偵フィリップ・マーロウを演じてハードボイルドの代名詞となる。■ はてなダイアリーには次の様な説明がある。hard-boiledミステリー小説の形式のひとつ。謎解きよりも、軟弱さを拒否する主人公の生き様の描写を重視する。都市を舞台にした騎士の話。小説だけでなく、映画やコミックなどにもその影響を与えた。「固茹で卵」の意から転じて、冷酷な、非情な、を意味する。第一次大戦後アメリカ文学に現れた創作態度。現実の冷酷・非情な事柄を、情緒表現をおさえた簡潔な文体で描写していこうとする。アーネスト・ヘミングウェイの初期の短編が代表的 感情を抑えて行動する主人公が登場する、探偵小説の一ジャンル。ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーなどがその代表的な作家 ■ ハードボイルド名作100と言うサイトがあるhttp://www.ne.jp/asahi/mystery/data/Best/HB100.html■ マンハント・ファイル MANHUNT FILE 総目次・索引(WEB版)http://www.ne.jp/asahi/mystery/data/MH/MHF.html ~~~~~~~~上にある「マンハント」という雑誌が、昭和30年代末に、日本で「初めて」「唯一の」ハードボイルド月刊誌として登場した。短命な雑誌だったけれど、私は学生ながら毎日購読していたほど、このハードボイルドが好きだった。・・・しかし、この雑誌にはいつもたっぷりヌード写真と言うか、ピンナップ写真が掲載されていて、それは今と違ってちゃんと(?)ビキニ水着をつけたモデルがスマイルしているのだが、なぜか、とても、エロっぽくて、若い私を充分興奮させるに充分なものだった。タフな探偵が活躍するストーリーの内容にも、当時としてはかなり濃厚な場面が描写されていて、これにも興奮したものだった。日本語に翻訳する人達の中に、田中小実昌氏がいて、田中氏の翻訳の文体が粋で、洒落ていて、印象的だった。この影響で、私はヴェイトナムのサイゴン(今のホーチミン)に駐在したときも、路上に売っている米軍のGIが読んだものを売り払っていたペーパーバックスの、カーター・ブラウンなどのお色気ハードボイルドものを読んだりした。 ~~~~~~~~ハードボイルドを探偵小説と考えると特殊になるが、誰もが知っているヘミングウェイの文体をイメージすれば、ハードボイルドは理解しやすい。つまり○ 感情を排除したクールで乾いた文体を特徴とした文学である。またヘミングウェイのような文学作品とはちょっと趣を異にする、カーター・ブラウンなどのタフな主人公・探偵や警官が活躍するエンターテイメントとしてのハードボイルドでは、その主人公の性格が下記のようなキーワードで表現される。○ 感傷性に欠けた タフな○ 孤独で冷徹○ 感情を抑えて行動する主人公映画俳優で言えば、やはりハンフリー・ボガートが代表的なハードボイルド俳優だろう。日本で言えば、高倉健あたりがそうなのかもしれない。私の意見では、寅さんシリーズでの渥美清もハードボイルドに入れてしまう。 ~~~~~~~~ハードボイルドの一般的定義や歴史はこれぐらいにして、私のハードボイルド感を書いてみようと思う。もちろん、私のバイアスがかかったハードボイルド感であるが。私の場合、ハードボイルドとは、「非情な運命を非情な心で受け止める」ではなく、「非情な運命」を、「非情を装ってはいるが、実は fragile = フラジャイルな、もろくて傷つきやすい心で受け止める」、スタイリッシュな文学だと思っている。つまり、浪花節の「やせ我慢」の美学であり、「武士は喰わねど高楊枝」を気取る態度などの文学である。主人公が「感情を抑制して非情を気取る=固ゆで卵」態度をとって勧善懲悪を実現していても、実は「それでいて本当は痛みを感じている心=柔らかな卵」がある。その二つの間の、相克・二律背反・アンビヴァレンツなどが、ハードボイルドだと思っている。その二律背反による「ねじれ」「意地っぱり」、特に「悲哀」などの感情がハードボイルドだと思っている。男性的で冷酷な行動を取ったり、感情を抑制して非情を気取るその反動で、その主人公の心は、「哀しみ」に満ちていて、その精神的構造はむしろ、「マゾヒズム」に近いものではないだろうか?「やせ我慢」こそ、マゾヒズムの源泉だと思っている。私にとってのハードボイルドとは、「哀しみの文学」である。ただタフな心を持った人間を表現するだけでは、文学として必要条件に欠けているのではないだろうか?だから、私にとって、スーパーマンのように強い男が、何事にも動じない鉄の様な強い冷酷な心で、どんな困難にも、無数の強大な敵にも、全くひるむことなく、立ち向かう不死身・・・というのは、面白くもなんともなく、「本当の」ハードボイルドではないのだ。その意味ではアーノルド・シュワルツェネガーなどは、私の定義でのハードボイルド俳優としては失格である。