数日後、ルドルフと瑞姫はフランツとともに成田へと向かった。
「瑞姫、向こうでは身体に気をつけるんですよ。」
「ええ、お義母様。」
瑞姫はそう言うと、顕枝を抱き締めた。
「では、行って参ります。」
黒塗りのリムジンに2人が乗り込むと、フランツはじっとルドルフの腕に抱かれ眠っている遼太郎を見た。
「可愛いな。これがお前の息子か?」
「ええ。わたしの宝物です。」
「そうか・・」
成田まで、フランツと瑞姫達との間に気まずい空気が流れた。
成田に着くと、客室乗務員の案内によって3人はハプスブルク帝国専用機の搭乗口へと向かった。
バスに揺られて数分後、機体の胴体部分にハプスブルク王家の紋章である双頭の鷲がペイントされた帝国専用機が見えた。
「お足もとにお気をつけてください。」
「は、はい・・」
遼太郎を抱き、ヒールがあるブーツを履いていた瑞姫はバスのステップにつまづいて転びそうになったが、寸でのところでルドルフが彼女を支えた。
「大丈夫か?」
「ええ。」
タラップの傍には数人のSPがおり、瑞姫達がタラップを上って機内へと入るのを見届け、彼らは瑞姫達の後に続いて機内へと乗り込んだ。
国家元首専用機とあってか、機内にはシャンデリアが天井に飾られ、真紅のソファがあり、とても飛行機の中とは思えないような内装となっていた。
「この子の名前は?」
「リョータロウといいます。」
「良い名だな。」
専用機がゆっくりと動き出したので、瑞姫達はシートベルトを着用した。
「ルドルフ様・・」
「大丈夫だ、大丈夫だから。」
ルドルフはそう言うと、不安がる瑞姫の手を握った。
専用機はやがて離陸し、ふわりと上空に浮かぶ感覚がした。
機体が安定し、ベルト着用サインが消えたので瑞姫は遼太郎に授乳する為、ママバッグの中から授乳ケープを取り出した。
「ウィーンはまだ寒いかな?」
「まだ寒いでしょうね。今年の冬の寒さは厳しいと言っていましたから。」
遼太郎が目を開けて瑞姫の乳房を小さな手で揉み始めた。
おっぱいを欲しがるサインだ。
(この子は、どうなってしまうんだろう?)
母乳を飲む息子の顔を見ながら、瑞姫はある不安を感じていた。
シリルからルドルフの幼少期の事を聞いているだけに、遼太郎も実母である自分から引き離されて育つのだろうか。
「ルドルフ様、わたしは遼太郎を普通の子として育てたいんです。」
「解っているよ、ミズキ。」
ウィーンに着いたら、日本で暮らしていたような穏やかな生活がなくなることをルドルフは確信していた。
遼太郎と瑞姫と離れたくないのは、ルドルフも同じだった。
いくら帝国の為とはいえ、これだけは譲れなかった。
「父上、お話があるのですが。ミズキとリョータロウのことで。」
「お前達親子を引き離しはしない。シュティファニーとの離婚は成立したし、お前の好きなようにすればいい。」
父の言葉を俄かに信じられないルドルフであったが、父が自分達の事を感がていることを知り、少し安心した。
10時間以上ものフライトを終え、専用機はウィーン国際空港へと着陸した。
「こちらです。」
タラップを降りた瑞姫達は、真紅の絨毯を歩いてリムジンへと乗り込んだ。
「これからホーフブルクへと向かう。」
(遂に来てしまった・・)
今や遠くなった故郷に瑞姫が想いを馳せていると、突然外からカメラのフラッシュが光った。
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