「ん・・」
夜が明け、瑞姫は隣で眠る夫を見た。
昨夜、ルドルフは激しく自分を求めてきた。
いつも愛し合っているのに、昨夜の彼はどこか獣じみていた。
ゆっくりとベッドから起き上がろうとすると、ズキリと腰に痛みが走った。
結婚記念日の夜も、こんな風に愛し合ったなと瑞姫は思い出しながら浴室へと向かおうとした時、突然彼女は激しい吐き気を催してトイレへと駆けこんだ。
「う・・」
瑞姫はそっと便器から顔を離すと、下腹を擦った。
(まさか・・)
5月の結婚記念日の夜に激しくルドルフと愛し合ってからもう3ヶ月が経つ。
その間パパラッチに付け回されたことによる精神的ストレスと、ルドルフと遼太郎の誕生パーティーの準備などで忙しくて月のものが遅れていたことに気づいた。
だが瑞姫は避妊薬を飲んでちゃんと基礎体温をつけていたので、まだ妊娠しないだろうと思い込んでいた。
せめて次の妊娠までは遼太郎が2歳になってからと思って避妊していたのに、失敗するだなんて―瑞姫は溜息を吐きながらトイレから出て、洗面所で顔を洗った。
「ミズキ、どうしたんだ?」
ゆっくりと蒼褪めた顔を瑞姫が上げると、ルドルフが心配そうに彼女を見つめた。
「突然気分が悪くなりまして。」
「ここに来てから色々と忙しかったからな。多分ストレス性の胃炎じゃないのか?」
「そうかもしれませんが、最近月のものが遅れていて・・もしかしたら・・」
「主治医を呼べ。」
ルドルフの言葉に従い、瑞姫は携帯でウィーンに居る主治医を呼びだした。
「ごめんなさいね、こんな朝早くに呼びだしてしまって。」
「いいえ。生理が遅れているそうですね?」
「ええ。」
診察の結果、瑞姫は2人目の子を身籠っていることが判った。
「まだ1歳の子が居るのに妊娠だなんて・・一体どうすれば・・」
妊娠が判った瑞姫は溜息を吐きながら、眉間を揉んだ。
「いいじゃないか。リョータロウのことはわたしと乳母が世話をするから、お前は余り無理をするな。」
「はい・・」
瑞姫の予期せぬ妊娠を、皇帝夫妻は祝福した。
「リョータロウにこんなに早く兄弟が出来るとは、嬉しい事だ。ミズキ、腹の子の事を考えて暫くは慈善活動を控えるように。」
フランツはそう言うと、にっこりと瑞姫に微笑んだ。
「はい、陛下。」
瑞姫は義父にそう言うと、彼の隣に座っている皇妃エリザベートを見た。
欧州随一の美女と謳われる彼女の美貌は、4人の子を産んだとは思えぬほどその美しさは未だに衰えていない。
「ミズキ、つわりが酷い時は公務を休んでもいいのよ。ルドルフ、余りミズキにわがままを言っては駄目よ。」
「そんな事をわたしはしませんよ、母上。」
ルドルフは母の言葉を受けて笑ったが、その笑顔が作り笑いだということに瑞姫は気づいていた。
「ててうえっ」
ルドルフと瑞姫が部屋に戻ろうとした時、覚束ない足取りで遼太郎が2人の元へと駆け寄って来た。
「リョータロウ、お前はお兄ちゃんになるんだよ。」
ルドルフは遼太郎をだっこしながら、彼の小さな手を瑞姫の下腹に当てた。
「まだ遼太郎には解らないよねぇ?」
「う~」
瑞姫の言葉に遼太郎は唸ると、ルドルフの胸に顔を埋めた。
「お父様、わたしも抱っこ!」
「わかった、エルジィ、後でな。」
(何よ、お父様・・わたしのこと、嫌いなんだ。)
瑞姫とルドルフが大好きなのに、何故かエルジィはそんな事を思い始めていた。
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