「ここが新しく暮らすお家だよ。」
セシャンはそう言うと、馬車から降りて別荘を見た。
「うわぁ、きれいなおうち!」
ミレィナは初めて見る別荘に興奮し、玄関ホールへと突進していった。
「ミレィナ、急に走ったら危ないだろ!」
マリが慌てて弟の後を追うと、彼女は突然1人の青年とぶつかった。
「すいません。」
「君が、セシャン様のお嬢さんだね?」
「はい、そうです。あなたは?」
「初めまして、僕はレニー。この別荘で働いているコックだ。」
「マリです。」
マリはそう言って青年―レニーに頭を下げた。
「マリ、こんな所に居たのね。お父様がお呼びよ。」
エリスが娘に声を掛けると、彼女は見知らぬ青年と話をしていた。
「母さん、この人はレニーさんと言って、ここのコックさんだよ。」
「レニーです。初めまして、奥様。」
レニーはそう言ってエリスに向かって頭を下げた。
「初めまして。これからこちらでお世話になるけれど、宜しくお願いしますね。」
エリスがそう言ってレニーに微笑むと、彼は照れ臭そうな表情を浮かべた。
「レニー、久しぶりだな。」
セシャンはそう言って、10年振りに会うコックに微笑んだ。
「お久しぶりです、セシャン様。」
「ここに来るのは10年振りだから、お前の料理が楽しみだな。」
「お任せ下さい、腕を存分に振るいますから。」
「そうか、楽しみにしてるぞ。」
その夜、別荘のダイニングルームでは、楽しげな笑い声が響いていた。
「どうだ、マリ、ミレィナ、レニーの料理は美味いか?」
「うん、美味しい!」
「喜んで頂けて嬉しいです。これから賑やかになりそうですね。」
「ああ、そうだな。」
アシリス滞在初日は、何のトラブルもなく平和に終わった。
「なぁエリス、ここでこれから上手くやっていけそうか?」
「ああ。ここでは宮廷生活みたいな煩わしいものに振り回されずに済むからな。」
「そうだな。」
翌日、マリとミレィナはアシリスの街を散策していた。
「寒いね、お姉様。」
「当たり前だろ。もうじき昼だから、うちに帰ろう。」
「うん。」
マリとミレィナが別荘へと向かうと、数人の子ども達が2人の前に現れた。
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