「きゃぁぁ!」
「おぉ、済まねぇ!」
千尋が悲鳴を上げて床に座り込むと、土方は慌ててドアを閉めた。
(畜生、ノックくらいしときゃよかったぜ!)
「旦那様、何をされているんですか?」
美佐子が怪訝そうな表情を浮かべながら土方を見ると、彼は苦笑いを浮かべた。
「いや、何でもねぇよ。」
「そうですかぁ? もしかして、千尋ちゃんの部屋をノックせずにお入りになられたとか?」
「ま、まさかそんな事俺がするわけ・・」
「旦那様、正直に申し上げてください!」
美佐子がじろりと土方を睨むと、彼は項垂れた。
「千尋。」
千尋が夜着に着替えた後、ドアがゆっくりと開いて土方が入って来た。
「さっきはその・・ノックもせずに開けて済まなかった。」
「いいえ・・あの、旦那様、何かご用ですか?」
「いやぁ、何でもねぇ。体調が悪そうだから、心配してだな・・」
「そうですか。お休みなさいませ、旦那様。」
「お、お休み!」
土方は顔を赤らめると、部屋から出て行った。
「全く旦那様ったら、年頃の娘の部屋に入るだなんて。」
美佐子が脱脂綿と三角パンツを片手に土方と入れ違いに部屋へと入って来た。
「はい、これ。今から使い方教えるわね。」
「ありがとうございます。助かります。」
千尋は美佐子に頭を下げ、安心して眠った。
一方土方は、寝室で眠ろうとしていたが、なかなか眠れずにいた。
眠ろうとすると、脳裡には下着姿の千尋が何度も浮かんでくるのだ。
(ったく、俺は一体どうなっちまったんだ!?)
土方は溜息を吐きながら、寝台から下りた。
そっと千尋の寝室へと向かい、ドアを開けてみると、彼女は寝息を立てながら眠っていた。
ゆっくりと中に入り、土方はそっと千尋の髪を撫でた。
「ん・・」
微かに彼女が身じろぎしたので、土方は慌てて寝室から出て行った。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
二日後、土方と千尋は箱根へと発つ前、斎藤達に見送られていた。
「千尋君、旦那様の事を宜しく頼む。」
斎藤はそう言うと、千尋に何かを手渡した。
「はい。」
千尋が車に乗り込む前、ロゼと視線が合った。
彼は何か言いたそうだったが、土方が苛立ちの表情を浮かべているので、慌てて千尋は彼に背を向けて車へと乗り込んだ。
「千尋、あのな・・」
「旦那様、あの・・」
千尋は土方と目が合い、思わず目をそらしてしまった。
「なんだ、話があるなら何か言いやがれ。」
「いいえ、何でもありません。」
「昨夜は、悪かったな。」
「いいえ・・」
それから箱根の宿まで2人は無言のままで、土方が口火を切ったのは女将に案内された部屋に入った時だった。
「長旅で疲れたろう。先に温泉に浸かってこい。」
「はい。あの、後ろ向いて貰えませんか? 着替えにくいので。」
「ああ、済まねぇな。」
土方は顔を赤く染めながら、慌ててそっぽを向いた。
千尋は帯締めと帯を解くと、振袖から浴衣へと着替えた。
「それじゃぁ、行って参ります。」
「ああ、行って来い。」
心臓が破裂せんばかりに脈打つのを感じながら、土方は部屋を出て行く千尋を見送った。
千尋は大浴場の脱衣所で浴衣と下着を脱ぐと、大浴場の湯にゆっくりと浸かった。
彼女は溜息を吐くと、これから土方と過ごす夜の事を考え、頬を赤く染めた。
素材提供:フリー素材屋Hoshino
土方さん、千尋を意識していますね。
千尋もまんざらではない様子。
これからどうなるか。
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