登が祖父の病室に戻ると、巽が妹からブログの使い方を教えて貰っているところだった。
「簡単にできるんだなぁ。」
「うん。それよりもお祖父ちゃん、どうしてブログなんか始めようと思ったの?」
「ちょっと探したい人が居てな。」
「探したい人って、健一じいちゃんが言っていた襄って人?」
「ああ。初めて会った時は13歳だったが、もう90代になっている筈だ。」
巽はそう言ってマウスを動かしながら、PCの画面を見つめていた。
「じゃぁお祖父ちゃん、ブログだけじゃなくてフェイスブックもやってみたら?」
「フェイスブック?」
「実名登録のソーシャルネットワークサービスよ。顔写真と自分のページを載せれば、世界中の人と交流できるのよ。」
「そうか、それもやってみようかな。」
数日後、巽は自分のフェイスブックのページを開き、ある人を探している旨を英語で書いた。
“音信不通のまま亡くなった兄の息子・襄を探しています。どなたか情報を知っておられる方は、下記のメールアドレスにご連絡ください。”
こんなもので情報が集まるものかと半信半疑であった巽だったが、ユーザー達からの反応は素早く、襄の事を知っているという彼らからの情報は1000を超えた。
だがその大半は面白半分な嘘ばかりで、やはり襄を見つけることはできないのではないかと、巽は落ち込んでいた。
一方、アメリカ・ボストンにある会社のオフィスで、巽のページを1人の老人が見ていた。
「会長、どうかされましたか?」
「わたしの事を、フェイスブックで探している人が居るんだ。」
老人はそう言って秘書に巽のページを見せた。
「メールしてみたらどうでしょう?もしかして彼は会長の親族なのかもしれません。」
「そうだな・・そうしてみよう。」
老人はデスクに飾られている家族の写真をちらりと見ると、巽にメールを出した。
「お祖父ちゃん、どう?情報集まった?」
「いいや。人一人探すのにこんなに苦労するとは思わなかったよ。」
そう言って巽は溜息を吐いた時、メールが一通入っていることに気づいた。
また面白半分に偽の情報を送ってきた輩だろうと彼がそのメールを開くと、そこには今は亡き長兄・総司とその息子・襄が映っている写真が載っていた。
“わたしはジョー・ネイルズです。両親とともにサンフランシスコで暮らしていましたが、今はボストンで会社を経営しています。もしあなたがわたしの親族なのなら、お返事をください。”
「どうしたの?」
「襄からメールが来た。ボストンで会社を経営しているそうだ。」
「そう、良かったね!」
「これで父や母に良い報告が出来る。」
そう言った巽は、満面の笑顔を浮かべていた。
それから、海を越えて襄と巽は時間の許す限りメールの遣り取りをした。
内容は日々の他愛のないことだったが、それだけでも2人は嬉しかった。
やがて一度だけでいいから会ってみたいと巽は思い、その旨をメールに書いて襄に送ると、彼も会いたいと返事を書いて来た。
「アメリカに行きたいんだが・・」
「お祖父ちゃん、襄さんに会いたいのね?」
「ああ、会って話がしたいんだ。」
巽は入所していた介護施設を出て、梨沙達と一緒に暮らすことになった。
「狭い所だけれど、我慢してね。」
「1人で居るよりも、楽しいよ。」
孫娘夫婦の世話になりながら、巽は襄と会う為の準備をしていた。
そんな中、1通のエア・メールが届いた。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.05.26 14:51:01
コメント(0)
|
コメントを書く
もっと見る