何処からか、狼の遠吠えが聞こえる。
その声を聞きながら、少年はパソコンに向かっていた。
両親の離婚により、喧騒に満ちた都会から、この自然豊かな田舎町に来てからまだ数日も経っていないが、彼はここが好きだった。
「何処にも居ないと思ったら、ここに居たのか。」
背後から声がして少年が振り向くと、そこには母方の祖父・マックスが立っていた。
「向こうの友達にメールを送ってたんだ。」
「そうか、NYはここから遠いからなぁ。今は誰とでもすぐに繋がっていいなぁ。」
「そうだね。それよりもお爺ちゃん、どうしたの?」
「これをお前に渡そうと思ってな。」
そう言ったマックスは、ペンダントを彼に手渡した。
「これは何?」
「わしが若い頃に軍に居た頃に着けた認識票だ。明日お前の誕生日だから、ラップトップとか洒落たもんをやろうと思ったんだが・・」
「いいよ。これは世界にひとつしかないものでしょう?ありがとう、大事にするね!」
明日が16歳の誕生日だということに、少年は忘れていた。
「誕生日おめでとう、アレックス。明日は盛大なパーティーをしような。」
「ありがとう、お爺ちゃん。」
少年―アレックスは、明日から始まる学校生活に期待と不安を胸を抱きながら、眠りに就いた。
翌朝、彼が祖父母と朝食を食べて家を出てバス停へと向かうと、そこには既に先客が居た。
ダークブロンドの髪に転校先の高校のエンブレムが刺繍されたブルーのジャケット。
「隣、いいかな?」
「ああ、いいぜ。お前、見かけない顔だな?」
そう言うと、ブルーのジャケットを着た少年はアイスブルーの瞳でアレックスを見た。
「俺、アレックス。」
「ディーンだ。宜しくな。転校生か?」
「ああ。数日前NYからこっちに引っ越してきて、今は爺ちゃん家に居る。」
「そうか。部活は何入ってたんだ?」
「コンピューター部さ。君は見たところアメフトかバスケやってそうだね?」
「当たり。俺はライオンズのメンバーさ。今度見学に来いよ、楽しいからさ。」
ディーンと二人で話している間に、スクールバスが二人の前に止まった。
「よぉディーン、先週の試合良かったな!」
二人がバスに乗り込むと、後部座席に座っていた男子生徒たちの一人がそう言ってディーンに声を掛けた。
「よぉネイサン、お前も最高だったぜ!」
ディーンはその男子生徒のほうへと向かうと、彼とハイタッチを交わした。
「見ない顔だな、新顔か?」
「こいつ、NYから来た転校生のアレックスだよ。アレックス、こいつはネイサン。俺の親友さ。」
「どうも、宜しく。」
「宜しく、仲良くやろうぜ、ニューヨーカー!」
ネイサンはそう言って白い歯を見せて笑うと、アレックスともハイタッチした。
転校初日は順調だった。
ランチタイムになると、アレックスはディーンたちとともに一緒のテーブルへと座った。
彼らがガールフレンドとすごした週末の事で盛り上がっていると、コツコツと甲高い靴音がしたかと思うと、数人の黒尽くめの集団がカフェテリアに入ってきた。
すると、その途端カフェテリアが水を打ったかのようにシーンと静まり返った。
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