(何だ?)
急に周りを取り巻いていた空気がガラリと変わったことに気づいたアレックスは、黒尽くめの集団を見ようと首を伸ばすと、慌ててディーンが彼の肩を掴んで自分たちの方へと引き戻した。
「あいつらには関わらない方がいいぜ。」
「どうして?」
「おいディーン、新入りはあいつらのこと知らねぇだろう?俺が教えといてやるよ。」
ネイサンがそう言ってポテトを口に放り込んでアレックスを見ると、急に声を潜めた。
「あいつらはサタン・・悪魔崇拝者のグループだ。いつも毎晩森の奥で集会を開いては、黒魔術をやってるんだ。」
「悪魔崇拝?だからみんなゴシック系な格好なんだ?」
「まぁ、そういうことだよ。俺に言わせりゃぁ、あいつらは変人だ。変人に近づいたら碌なことがねぇからよ、忠告しとくぜ。」
「わかった・・」
NYの学校ではゴシック系や体育会系の生徒など、個性的なファッションをしている連中が多かったが、アレックスはゴシック系の生徒たちと親しかったし、彼らを一度も変人だとは思わなかった。
だがこの高校の生徒たちは違うらしい。
マックスが住んでいる地域は、バイブル=ベルトと呼ばれている保守的なキリスト教徒が住む地域に近かった。
そんな地域に住む彼らが、悪魔崇拝者のグループを忌み嫌うのは当たり前かも知れない。
だが、外見だけで人を判断してはいけない―幼い頃からそうマックスに教えられていたアレックスが反論しようとした時、一人の男子生徒と目が合った。
艶やかな黒髪に、狼のような瞳。
黒い襟を立てたコートを着た姿は、ロックスターのようで格好良かった。
「アレックス、どうした?」
「いや・・なんでもない。」
「うちのチームに見学に来いよ。」
「う、うん・・」
アメフトなんて、テレビで観ただけだから、自分にできるかどうかわからなかった。
ただ、見学だけならと軽い気持ちでアレックスはディーン達とともにスタジアムへとやって来た。
「ハーイディーン、久しぶりじゃない!」
スタジアムに入るなり、ディーンの前にブロンドの髪をなびかせながら一人のチアリーダーが駆け寄ってきた。
「ジェーン、元気にしてたか?」
「ええ。今度の試合、楽しみにしてるわね。それよりも、この子だぁれ?」
「ああ、こいつはNYから来たアレックスだ。」
「ふぅん、可愛いわねぇ。」
チアリーダーはまるで品定めするかのようにアレックスを見た。
ディーン達のプレイを見学した後、アレックスは自分には無理だと思いながら、アメフト部に入部をどう断ろうかと迷いバス停へと向かっていると、カフェテリアで見かけた男子生徒が立っていた。
アレックスは声を掛けようかと思ったが、ネイサンの言葉が脳裏に甦った。
“あいつらは変人だ。”
アレックスが背を向けてバス停から去ろうとしていると、誰かに肩を掴まれた。
「お前、俺の事を見ていただろう?」
彼が振り向くと、金色の双眸が自分を射るように見つめていた。
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