はじめアレックスは聞こえない振りをしようとしたが、少年と目が合ってしまったので、逃げられないと思い、少年を見た。
「うん、見てたよ。不快に思ったのなら謝るよ。」
「へぇ・・」
アレックスの言葉を聞いた少年は片眉を上げると、フッと笑った。
それと同時に、金色の瞳が光った。
「お前、名前は?」
「アレックスだ。君は?」
「俺はウォルフ。アレックス、俺たちのことが知りたいなら、この場所に来い。」
そう言って少年は、アレックスに一枚のメモを渡した。
それは町の中心部にあるバーの名前だった。
「じゃぁな。」
彼はひらひらとアレックスに手を振ると、バス停から立ち去っていった。
「ただいま・・」
「お帰り、アレックス。転校初日はどうだったか?」
「まぁまぁかな。アメフトスターのディーンに気に入られたから。」
「ディーンっていうと、あのタンバレイン家の?」
「お爺ちゃん、知ってるの?」
「ああ。奴の息子の代から知っとる。あいつらは代々アメフトスターで、傲慢な金持ち野郎だ。お前も新聞で見たことがあるだろうが、ディーンの親父さんは・・」
「上院議員のフランシス=タンバレインだろ?NYに居ればそりゃぁ知ってるよ。それよりもどうしてディーンはNYやワシントンの学校じゃなくて、こんな辺鄙(へんぴ)な田舎町の高校に通ってるわけ?」
「さぁな。噂によれば、ディーンはNYの私立校で色々と問題を起こして退学になって、知り合いが居ないここに引っ越して来たらしい。」
「“らしい”?」
「なぁアレックス、あいつとは余り深く付き合わない方がいいぞ。だいいち、お前とあいつとでは性格が合わないかもしれんからな。」
マックスの言葉には一理あると、アレックスは思った。
バス停で声を掛けられた時は嬉しかったのだが、彼と深く付き合いたくはない気がした。
「さてと、冷蔵庫にケーキが入っているから取って来るよ。」
マックスは腰を上げると、キッチンへと消えた。
ダイニングでスマートフォンを弄っていたアレックスは、一通のメールが来ていることに気づいた。
何気なくメールを開くと、そこには血文字で書かれた悪趣味なメッセージが液晶画面に表示された。
“気をつけろ、アレックス。もうすぐお前は死ぬ。”
(何だよ、これ・・)
アレックスがメールを削除しようとすると、皿が割れる派手な音がキッチンから聞こえた。
「お爺ちゃん?」
彼がキッチンに入ると、そこには祖父が倒れていた。
「どうしたの、お爺ちゃん、しっかりして!」
アレックスは狼狽しながらマックスの身体を揺らすと、彼はアレックスの手を握った。
「アレックス・・あいつらに気をつけろ。」
「あいつらって誰?ねぇ、お爺ちゃんしっかりして!」
マックスは病院に運ばれ、一命を取り留めた。
(一体、お爺ちゃんに何が・・)
アレックスは何がなんだか解らずに、ただひたすら祖父の無事を祈った。
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