翌日、アレックスがいつもどおりにバス停へと向かうと、そこにはディーンや彼の取り巻き達が何かを話しながら笑っていた。
昨夜のパーティーの件で彼の本性を知ってしまったアレックスは、あまりディーンに近づきたくなかったので、彼とは目を合わせないようにした。
バスが来ると、アレックスはすぐに降りれるように前から二番目の席に乗った。
iPod で音楽を聴きながら外の風景を眺めていると、不意に後部座席の方から甲高い笑い声が聞こえた。
思わずアレックスが振り向くと、ちょうどディーンがスマートフォンを見ながらアンジェラ達とくすくす笑っているところだった。
「ねぇ、これ流したらあの子もう学校に来ないんじゃない?」
「ああ・・まぁあんなやつ、居なくなっても誰も気づかねぇよ。」
どうやらディーンは誰かをターゲットに、残酷ないじめを始めるつもりらしい。
NYの学校でも、いじめはあった。
だが大都会の高校と、辺鄙(へんぴ)な片田舎の高校で行われるいじめは、どちらが残酷なものなのだろうか。
都会でも田舎でも、悪意を持つ人間が居る限り、いじめの残酷さなど比較にはならない。
体育会系のディーン達や、チアリーダー達のいじめは陰湿かつ巧妙で、残酷なものだ。
狙われるのは大抵ガリ勉やコンピューターオタク、そしてチアリーディングチームに属さない、“普通”の女子生徒だ。
「ねぇ、これで大丈夫なの?」
「ああ。」
「じゃぁ、今から送ろうよ。」
アンジェラの手が、ディーンのスマートフォンを弄るのを見た後、アレックスはさっと彼と目を合わせぬよう、窓へと視線を戻した。
「よぉ、アレックス!一緒にランチ食べないか?」
「悪い・・ちょっと予定があるんだ。」
「そうか。」
アレックスの返事にディーンは一瞬少し残念そうな顔をしながら、アンジェラ達とともに科学室へと入っていった。
アレックスは彼らと向かった教室とは反対側にある教室に入り、そこでスペイン語の授業を受けた。
「よぉ、アレックス。」
ランチタイムになり、少しコンピューターでも弄ろうかと思っていたアレックスが廊下を歩いていると、ゴシック系グループの一人、フェリックスが話しかけてきた。
「どうも・・フェリックスだっけ?確か国語の授業で一緒だよね?」
「ああ。俺たちとランチ食わないか?ピザ奢(おご)るからさ!」
「うん・・」
フェリックス達と学校を出て、彼の車で近くのピザパーラー『ルーイの店』でピザを彼らと食べていると、ウォルフが店に入ってきた。
「ウォルフ、来たのか。」
フェリックスはそう言うと、仲間を連れて何処かへと行ってしまった。
そこで漸く、彼が自分をここへと連れ出した理由がわかった。
「昨日は感情的になってた。」
「いいんだよ。でも、これからどうするの?」
「今まで通り一人で暮らすさ。それよりもディーンの奴とは会ったのか?」
「今朝会ってランチに誘われたけど、断った。」
アレックスがそう言ってスイート・ティーを一口飲んでいると、スマートフォンが鳴った。
「もしもし?はい・・お爺ちゃんの意識が戻った?はい、すぐに行きます!」
「俺が病院に連れて行ってやろうか?」
「ありがとう、でもタクシーで行くよ。」
ピザパーラーを飛び出したアレックスはタクシーですぐさま病院へと向かった。
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