アンジェラをアレックスがプールに突き落とした“プール事件”は、現場に居合わせたチアリーダーのマンディに撮影された動画によって、あっという間に広まった。
「アンジェラ、少しは頭冷えた?」
「夏でもないのにプールに入るなんて、イカしてるじゃん!」
動画を観た生徒達は、アンジェラが通りかかるたびにそう言ってクスクスと意地の悪い笑い声を上げた。
その度にアンジェラは歯を剥き出しにして相手に掴みかかったが、それもからかいのネタになり、彼女に対するいじめはエスカレートするばかりであった。
次第に彼女とつるんでいた取り巻き達もいじめに加担するようになり、動画を撮影したマンディはアンジェラに代わって学園の新女王となった。
そんな学校内の勢力図の変化を遠巻きに観察しながら、アレックスはいつ彼女に謝ろうかと考えていた。
確かに家族を馬鹿にされ腹が立ったが、アンジェラをプールに突き落とすのはやり過ぎた。
「どうしたんだ、アレックス?顔色が悪いぞ?」
スペイン語の授業が始まる前、ウォルフに話しかけられ、アレックスは我に返った。
「実は・・」
アンジェラをプールに突き落としたことをウォルフに話すと、彼は笑った。
「最高だぜ、お前。悪いのは向こうなんだろ?だったら謝る必要はない。」
「そうかな?」
「ああ。あの女は他人に今までしたことが全部自分に返ってきたんだ。」
ウォルフの言葉にアレックスは反論しようとしたが、その前に始業のベルが鳴った。
ランチタイムにアレックスがカフェテリアに入ると、アメフトチームが座るテーブルの方から冷たい視線を感じたが、敢えてそちらの方を見ないようにしてウォルフと一緒にランチを取りに行った。
「よぉウォルフ、お前いつからゴスの仲間入りしたんだ?」
「お前女っ気ないと思ったら、ゲイだったのか?」
あのタンバレイン家のパーティーで聞いた、傲慢で冷たいディーンの声に、アレックスは怒りでどうにかなりそうだった。
だが、ウォルフはディーンに掴みかかろうとするアレックスを止めた。
「よせ、あの筋肉バカの所為で一生を棒に振る気か?」
「でも・・」
「俺に任しておけ。」
そう言うとウォルフはランチを載せたトレイを持つと、ディーン達のテーブルへと向かった。
何をするつもりなのかと全校生徒が見守る中、ウォルフはコーラの缶を軽く振ると、それをディーンの頭上へとぶちまけた。
「何すんだてめぇ!?」
「手元が狂ってな。お前あまり調子に乗ってると痛い目に遭うぞ。」
「ふん、娼婦の息子が生意気に!」
ディーンがウォルフの胸倉に掴みかかろうとしたが、その前に彼は自分よりも華奢なウォルフに強烈なパンチを食らい、無様に床にのびてしまった。
「何あれ、ダッサ~イ!」
「アメフトスターもカタナシね!」
チアリーダーとチームメイトの嘲笑を浴びながら、ディーンはカフェテリアから飛び出していった。
「ウォルフは俺らのヒーローだ!」
あたりを見渡すと、ゴスやオタク達がウォルフに向かって親指を立てながら歓声を上げていた。
だが彼はそんな彼らを無視して、ゆっくりとマンディの方へと近づくなり、彼女の耳元で何かを囁いた。
「さてと、もう行こうか。」
「う、うん・・」
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