「ねぇ、さっきマンディーになんて囁いたの?」
「それは教えない。」
コンピューター・ルームでプログラミングの授業を受けながら、アレックスはカフェテリアでのことをウォルフから聞きだそうとしたが、無駄だった。
「ディーンはもう俺達には手を出さないだろう。」
「どうしてわかるの?」
「勘だよ、勘。」
ウォルフはそう言って笑うと、パソコンの画面に向き直った。
「さてと、これでよしっと。後は家でやろうかな。」
「ねぇ、うちに来ない?俺こういうの詳しいし、一人でやるよりも捗ると思うよ?」
「そうか、じゃぁお言葉に甘えて。」
放課後、アレックスはバスに乗ると、後部座席にディーンが座っていることに気づいたが、カフェテリアでのこともあり、あまり話しかけたくなかった。
すると、ディーンの方がアレックスの隣に座ってきた。
「なぁ、お前あいつとはどんな関係なんだ?」
「別に。君が想像するような関係じゃないから。あぁ、彼が腹違いの兄さんだってこと、知ってるよ。」
「誰にも言うなよ。」
「言わないよ、君が変な噂を広めない限りね。あと、これも当分流さないでおくから、安心して。」
アレックスは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、ディーンの前にスマートフォンを翳(かざ)した。
そこには、泥酔して全裸になってクラブで歌っているディーンの写真が映っていた。
「てめぇ・・」
「こんなの、俺がやれば朝飯前さ。ま、君の“お友達”からこの写真を手に入れたけど。」
「ネガはどこにあるんだ?」
ディーンが自分のバックパックのチャックに手を伸ばそうとするのを、アレックスは阻止した。
「今時ネガなんて使う筈ないじゃん。これは切り札として取っておくよ。」
「何企んでいやがる?さっさと白状した方がお前の為だぞ?」
ディーンはポキポキと手の骨を鳴らしながら威嚇し始めたのを見て、アレックスは口元に冷笑を浮かべた。
「何で俺がそんなことしなくちゃいけないの?この写真をばら撒かれて困ることでもあるの?」
アレックスの言葉にディーンの顔がさっと怒りで赤くなった。
「ねぇディーン、前から疑問に思ってたんだけど。」
「何だよ?」
「君、金持ちなのにどうして車持ってないの?こんなみみっちいバスなんかに乗るよりも、愛車で町をかっ飛ばした方が楽じゃない?あぁ、パパにカードを停められたんだっけ?」
どうやら図星のようで、ディーンはアレックスを殴ろうと大きく腕を振り上げたが、アレックスはさっさとバスを降りて家へと向かった。
「ただいま。」
「お帰り。アレックス、今日は老人会の集まりで遅くなるから、戸締りには気をつけるんだぞ。」
「うん、わかった。気をつけてね、お爺ちゃん。」
マックスが車に乗り込み、家から出て行くのをポーチで見送ったアレックスは、寒さに身を震わせながらリビングへと戻ってラップトップを起動させた。
NYほどではないものの、天候が崩れやすいこの地域の冬は、それなりに寒いものだった。
しばらくアレックスが課題をやっていると、玄関のチャイムが鳴った。
「どなた?」
「俺だ、ウォルフ。」
「待ってたよ、どうぞ。」
ドアを開けてウォルフを招き入れると、彼はソファに腰を下ろしながらラップトップを取り出した。
「課題はもう終わったのか?」
「うん。帰るとき、ディーンが話しかけてきたから散々脅してやったよ。これを使ってね。」
アレックスがウォルフに例の写真を見せると、彼は腹を抱えてゲラゲラと笑った。
「よく出来た写真だな!お前がやったのか?」
「ううん、チアリーダーのシャンテルが“お詫びのしるし”にくれたんだ。」
「アンジェラの元親友か。チアリーダーではマンディが学園の女王になって、色々とハメをはずしてるらしい。夜8時頃に『ジャーヘッド』に行けば、きっと面白いものが見られるぞ。」
「へぇ・・それは面白そうだね。」
数分後、ディーンが運転するハーレーに跨りながら、彼とともに『ジャーヘッド』へと向かうと、そこはストレスを発散しに来た若者でごった返していた。
店に入ると、高校の同級生達がビール瓶を片手にリズムに乗り、頭を激しく揺らしながらフロアで踊っていた。
「随分と盛り上がってるね。」
「ここしかストレスを発散させる場所がないからな。」
アレックス達がバーカウンターへと向かうと、ラリーがちょうど奥の部屋から出てくるところだった。
「ハーイお二人さん、また会いに来てくれて嬉しいよ。」
「ラリー、マンディー達は?」
「ああ、アバズレ共なら秘密のフロアでパーティーさ。スクープを撮りたいなら奥から二番目の部屋に行ってみな。」
ラリーはそう言ってスツールに腰を下ろすと、マティーニをバーテンダーに頼んだ。
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