「え~っと、確かここだよね?」
ショッピングモールの駐車場でアンジェラから渡されたメモに記された住所を頼りに、アレックスは高級住宅街へと足を踏み入れた。
そこには当然、タンバレイン家も住んでいるし、チアリーディングチームのメンバーも大抵ここの住民だ。
夕食の後急いで来たので着替える暇がなく、ジーンズとパーカーというラフな格好でアレックスがカーク家の玄関の前に現れると、応対に出てきた黒人のヘルプが訝しげな目を彼に向けた。
「ここでパーティーをするって、アンジェラに聞いたんですが・・」
「そうですか。少々お待ちくださいませ。」
そう言ってヘルプは家の中へと消えていったが、数分経っても戻ってこなかった。
もうそろそろ帰ろうかとアレックスがカーク家を後にしようとすると、プールの方から笑い声が聞こえた。
何だろうと思いながらアレックスがプールへと向かうと、そこにはドレスを着たアンジェラと彼女の取り巻き達が、ショッピングモールの駐車場でアレックスに会った時のことを面白おかしく話していた。
「ねぇ、あいつにメモ渡したとき、目をパチクリさせてこう言ったんだよ。『パーティーって、どんな?』って!」
甲高く不快な笑い声が、アレックスの耳朶に突き刺さった。
「隣にあいつの爺さんが居たんだけどさ、少しボケてるみたいね。」
「もともとからボケてるんだよ。だってあたし、売春クラブに出入りしてるところを見たもん!」
「ボケてるってとこは、色ボケなわけぇ?ゲーッ、キモイ!」
アンジェラは吐くまねをしながらそう言って笑うと、ウィスキーを飲もうとした。
だがそうする前に、彼女は冷たいプールの中へと落ちて悲鳴を上げた。
「何すんのよ!」
「少しは頭が冷えたか、馬鹿女?」
プールサイドでアレックスはキーキーと喚くアンジェラを睨みつけると、プールから立ち去っていった。
「アレックス、待って!」
高級住宅街の敷地からもうすぐ出られると思いながらアレックスが元来た道を戻っていると、誰かが自分の腕を掴んで呼び止めた。
「何だよ?」
「あの子、どっかおかしいんだよ。最近ディーンとうまくいってないらしくてさ。」
アレックスが憤怒の形相を浮かべて振り向くと、そこにはアンジェラの親友・シャンテルが立っていた。
「それがどうしたんだ?彼氏とうまくいっていないストレスを、他人の家族を笑いものにすることで解消するのか?ああ、確かにおかしいかもな!」
「本当だよ、アンジェラはイカれてる。あたし、あいつとはもう絶縁する。」
シャンテルは美しく手入れされた黒髪を撫でると、溜息を吐いた。
「家、遠いんでしょ?待ってて、車で送るからさ。」
「いいよ、別に。」
「送らせてよ、アレックス。あんたに嫌な思いをさせたんだから。」
数分後、シャンテルはピカピカの新車にアレックスを乗せると、彼の家の前にある通りまで向かった。
「さっきは怒鳴ってごめん・・イライラしててさ。」
交差点に差し掛かり彼女が赤信号で停まると、アレックスは彼女に怒鳴ってしまったことを謝った。
「いいよ、誰にだってそんなことあるよ。あたしなんかしょっちゅう弟と怒鳴りあってるよ。でもたまに甘えてくるからさ、憎めないんだよね。」
「へぇ、そうなんだ。」
暫く他愛のないことを話している内に、家の前の通りまであっという間に着いてしまった。
「送ってくれてありがとう。」
「ううん、じゃぁまた明日ね。」
シャンテルの車が砂埃を上げながら遠ざかってゆくのを暫く見つめたアレックスは、さっさと家の中へと入っていった。
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