「ねぇ、あそんでぇ~!」
浴室に入ってきた小さな影は、4,5歳くらいの女児だった。
「ごめんね、今お姉ちゃん忙しいんだ。」
「やだぁ、あそんでぇ~!」
女児はアレックスの言葉を聞くなり、大きな瞳を潤ませて駄々をこねた。
「ジェーン、駄目じゃないか!お客様を困らせちゃ!」
浴室にあのパーティーで会ったジェイクがブロンドの髪をなびかせると、浴室に入るなり女児を抱き上げた。
「済まないね、娘がお騒がせしてしまって。」
「いいえ・・」
アレックスは素肌にバスタオル一枚という無防備な姿をジェイクに見せたくなかったので、慌ててシャワーカーテンの向こうへと引っ込んだ。
「いや~、おねえちゃんとあそぶ~!」
「わがままを言うのは止しなさい!」
愚図る女児を厳しく叱るジェイクの声が廊下に響いたが、彼らの声は次第に小さくなっていった。
「疲れたな。もう休め。」
「わかった・・」
ドライヤーで手早く髪を乾かすと、アーニーが用意してくれた夜着を見てアレックスはまたもや絶句した。
当然、それは女性用で、しかも透けているレース素材だった。
こんなピラピラとしたものを着て寝なければならないなんて嫌だったが、ほかに着替えはない為、背に腹は返られなかった。
「やけに刺激的な格好だな。」
「好きでこんな格好をしているわけないよ。」
寝室に戻ってきたアレックスの格好を見たウォルフがそう呟くと、アレックスは憮然とした表情を浮かべながらベッドに横たわった。
「明日からどうなるかなぁ。なんだかうまく騙せる自信ないよ。」
「俺だって自信はないさ。ま、お高くとまっているタンバレイン家の連中に一泡吹かせたいって思いはあるがな。」
「そんなにタンバレイン家を憎んでいるのは何故?やっぱりお母さんとのことがあるから?」
「それもあるが、他にも色々と憎む理由はある。」
そう言ったウォルフの瞳は、悲しみで少し翳っていた。
その夜、アレックスは眠ろうとしたが、目が冴えてしまってなかなか眠れなかったので、屋敷の中を散策することにした。
歴史ある名家とあって、廊下には一族の肖像画や家族写真などが飾られていた。
(ふ~ん、これがウォルフのお父さんかぁ・・)
いつの頃の家族写真だろうか、まだ結婚して間もないミスター・タンバレインとタンバレイン夫人の後ろに、ウォルフに良く似たメイドが一人映っていた。
漆黒の髪に、金の瞳―彼女がウォルフの母親・リリアナなのだろうか。
ウォルフは彼女が交通事故で死んだと言ったが、それは本当なのだろうか。
夫を奪った彼女を憎いあまりに、タンバレイン夫人が彼女を事故に見せかけて殺したのではないのだろうか。
そんなことが頭の中でグルグルと回っていると、プールの方で物音がした。
何だろうかと思いながらアレックスがプールへと向かうと、その中では一人の青年が水飛沫を上げながら泳いでいた。
こんな夜中に泳ぐ者が居るなんて珍しいなと思いながらじっと青年が泳いでいる様子を見ていると、アレックスは青年と視線が合った。
(うわ、ヤバッ!)
慌ててアレックスは茂みの陰へと身を隠すと、やがて青年がプールから上がってきた。
「誰かと思ったら、君じゃない。こんな夜中にプールだなんて、イカれてるね。」
「そんなお前もイカれてるだろ。」
「ふふ、そう思う?」
茂みの陰からアレックスがプールサイドを見ると、引き締まった青年の筋肉を触るラリーの姿が目に入った。
一体何をするのだろうかと思いながらアレックスがしばらく様子を見ていると、ラリーは青年を抱きしめてキスをした。
「ねぇ、抱いてよ。」
「ああ、わかったよ。」
二人の様子は、まるで新婚のカップルそのものであった。
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