「こんな日にプールで泳ぐなんて、正気なの?」
ラリーはそう言うと、青年の胸を白い手で撫でた。
彼はくすくすと笑いながら、ベンチから上半身を起こした。
「単に気晴らししたいだけさ。君のほうこそ、そんな格好で外をうろついていいのかい?」
「いいんだよ、誰も見ないから。」
ラリーは青年にしなだれかかると、彼に微笑んだ。
「ねえ、タンバレイン家に新しい家族がもうすぐ加わりそうだよ。」
「その情報は何処から?」
「情報源は明かさないよ。さてと、こっちの情報を渡したから、今度はあなたの情報が欲しいな。」
金色の瞳を輝かせ、ラリーは青年に妖艶な笑みを浮かべた。
「最近、北部の連中が色々と厄介なトラブルを抱えているらしい。」
「北部の連中・・ああ、ハノーヴァー家か。それか、ニューイングランドを根城にしているお高くとまったフランス貴族の血をひくバルニエール家かな?」
「どちらでも。まぁ、やっこさん達、とうとうニューイングランド周辺の土地を買い占めるのにももう飽きたようで、こちらの領地にも手を出そうとしているらしいよ。」
「鼻持ちならない北部人(ヤンキー)どもだ。まぁ、あいつらとわたし達は昔から敵同士だからね。」
ラリーはフッと笑うと、サイドテーブルに置いてあったシャンパンのグラスを取った。
「随分と余裕だね。それほどビジネスが上手くいっているのかな?」
「まぁね。こういう娯楽が少ない場所にとってわたしのクラブは若者達の盛り場さ。NYやワシントン、ニューオーリンズには色々と遊ぶ場所があるから、クラブを経営していたらすぐに潰れただろうよ。」
「まぁ、そうだろうね。君も僕らの庇護がなければ、この町で上手くやっていけなかっただろう。ここの住民達はみな信心深くて、異質な者を拒む。排他的で身内意識が強いのさ。」
「その象徴たるものが、タンバレイン家だね。南部の旧家で、自分達が作ったルールが真実だと信じ込んでいる愚かな連中。ウォルフも可哀想に。」
「彼はあんな連中と互角に渡り合えるだけの覚悟と根性を持っているさ、心配要らないよ。ただ、問題はあの婚約者だけどね・・」
「彼女も心配要らないよ。さてと、寒いから中に入ろうか?」
「ああ。」
青年が濡れた髪をタオルで拭いながら、屋敷の中へと入っていった。
「いつから居たの、アレックス?」
ラリーはそう言うと、茂みの方へと目を向けた。
「最初から。色々と話していましたね。」
「まあね。アレックス、ここは悪魔の棲家だよ。気を抜いたとたんに足元を掬われないように気をつけな。」
ラリーはアレックスの肩を優しくタッチすると、青年の後を追って屋敷の中へと入っていった。
(悪魔の棲家、ねぇ・・)
自分の部屋へと戻りながら、アレックスはラリーの言葉の意味を考えていた。
悪魔の棲家とは、一体どういう意味なのか。
悪魔とは、一体誰のことなのか・・
「遅かったな。」
「うん、ちょっと散歩しにね。」
「そうか。明日から忙しくなるぞ、覚悟しろ。」
「うん、わかった。お休み。」
「ああ、お休み。」
アレックスがベッドに横たわって天蓋を閉めると、そのタイミングを見計らってウォルフが寝室の電気を消した。
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