「ママ・・」
アレックスは母達が消えていった出口をいつまでも見つめていた。
まさか、こんな場所でメグと再会するだなんて、夢にも思わなかった。
「アレックス?」
「ウォルフ・・」
肩を叩かれてアレックスが振り向くと、そこには心配そうな顔をしたウォルフが立っていた。
「あんまり遅いから、心配したんだぞ?」
「ごめん・・」
次々と溢れてくる涙を拭ったアレックスを見たウォルフは、そっとハンカチを差し出した。
「何があったのかは知らないが、早く戻ろう。爺さんが心配してるぞ。」
「うん、わかった・・」
ハンカチで慌てて目元を拭ったアレックスは、ウォルフに売店で買った飲み物と食べ物が入った紙袋を渡すと、女子トイレへと入った。
洗面台で化粧が崩れていないことを確認したアレックスは、ウォータープルーフのマスカラをつけていて良かったと思いながら女子トイレを後にしようとした時、マンディと偶然鉢合わせしてしまった。
だが、彼女は全くアレックスに気づいておらず、友人達とペチャクチャ喋りながら洗面台を独占した。
「これからパーティーだから、気合入れていかないと!」
「そうよねぇ、あんた今失恋したばかりなんでしょう、マンディ?」
「そうよ、あいつったら陰でコソコソとアンジェラに会ってたんだから!浮気現場に突撃して、あいつの股間にスタンガンを食らわせてやったわよ!」
「やるじゃん!」
マンディとその友人達は、良家の令嬢とは思えぬ下品な笑い声を上げた。
彼女達の脇をアレックスは擦り抜け、女子トイレから出て行った。
「遅かったな、どうした?」
「トイレが混んでまして。この暑さですもの、化粧が崩れてしまっているんじゃないかと心配で・・」
「そうか。」
ヘンドリックスはすんなりとアレックスの嘘を信じたらしい。
「今夜は祝勝会を開くぞ!何せわしの馬が優勝したんだからな!」
その夜、ヘンドリックスの宣言通り、タンバレイン邸では華やかな祝勝会が開かれた。
「全く君の馬は負け知らずだな、ヘンドリックス。流石サラブレッド王と呼ばれただけあるな。」
「はは、そうだろう?」
友人達に囲まれたヘンドリックスは始終上機嫌だった。
彼らが来るまでは。
「今晩は、ムッシュー・タンバレイン。勝利の美酒に酔いしれるのに相応しい素敵な夜ですこと。」
ロシアン=セーブルの毛皮を羽織り、黒いドレスを纏ったブルネットの女性がやって来た途端、和気藹々としていた周りの空気が急に張り詰めた気がした。
「貴様、何しに来た?負け惜しみでも言いに来たのか?」
「あら、そんなこといたしませんわ。わたくしも正式な招待を受けたのよ、ちょっとは歓迎してくださらないこと?」
美女がそう言うと、ヘンドリックスに嫣然とした笑みを浮かべていた。
だが彼女とは対照的に、ヘンドリックスの顔は徐々に険しくなっていた。
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