クリスマスを過ぎると、この町は珍しく大雪に見舞われ、子供達は雪遊びに興じていた。
「全く、寒くて仕方がないな。」
暖炉にまた石炭を投げ入れながら、ウォルフはそう言って溜息を吐いた。
「こんなので寒いっていったら、NYの方がここよりもずっと寒いよ。朝から路面が凍って、滑らないように歩くのが大変なんだもの。」
「そうか。」
アレックスは膝上に乗っているルナを撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
家族の一員となったこの猫は、今やタンバレイン家のアイドルとなった。
ヘンドリックスは毎日ルナに会いに来るし、タンバレイン夫人はルナを嫌っている振りをしていながらも、こっそりと最高級のペットフードを与えていることをアレックスは知っていた。
ルナは誰にでもなついたが、ジェフの娘・ジェーンにだけはなかなかなつかなかった。
「どうしてかなぁ?」
「第一印象が最悪だったんだろう。」
ウォルフはそう言ってルナを抱き上げ、暖炉のそばにおいてあるソファに腰を下ろした。
「ハーイ、アレックス。元気にしてた?」
ルナのために猫専用のベッドやトイレなどをウォルフが運転する車で近くにあるウォルマートへと二人が向かうと、そこにはカートに食料品を積んだラリーと出会った。
彼はダウンジャケットを羽織り、デニムのジーンズに10センチヒールのブーツを履いていた。
「やぁ、ラリー。そんなヒールの高いブーツ、履いていて大丈夫なの?」
「大丈夫さ。それよりも沢山買ってるね。ペットでも飼い始めたの?」
「ああ。猫を飼い始めてな。これからしつけもしないといけないから、大変だ。」
「ふぅん。一度見てみたいなぁ。」
「ラリーも飼えばいいのに、可愛いよ!」
「そうしたいんだけど、店があるからねぇ。まぁ一人暮らしだからいいかもね。」
ラリーはそう言うと笑った。
「ワインとか買ってるけど、誰か来るの?」
「まぁね。今夜は大切なお客さんが来るんだよ。それじゃぁね。」
ラリーと駐車場で別れた二人がタンバレイン邸へと戻ると、リビングがなにやら騒がしかった。
「どうしたんだ?」
「ウォルフ坊ちゃん、大変です!あの女が・・」
「あの女?」
ウォルフが眉を顰(ひそ)めると、リビングにタンバレイン家の宿敵・バルニエール家の女主人・カトリーヌが優雅に現れた。
「お久しぶりね、ウォルフ。」
「何をしに来た?」
「あら、こちらに用があるのはわたくしではないわ。こちらの方よ。」
カトリーヌは一歩退くと、そこからあの鷲鼻の男が現れた。
「こちらの方はジャック。ハノーヴァー家のご当主様よ。あなたのフィアンセに話があるのですって。」
カトリーヌが話し終えると、鷲鼻の男はゆっくりとアレックスに向かってきた。
「お前が、あの女の子供か?」
男の声は氷のように冷たかった。
「は、はい・・」
(何、この人怖い・・)
アレックスの怯えているのが伝わったのか、彼に抱かれているルナが男に向かって低く唸った。
「ジャック、お願いだからやめて!」
男とアレックスが睨みあっていると、リビングに一人の女性が駆け込んできた。
それは紛れもなく、アレックスの母・メグであった。
「やめて、ジャック!お願いだからこの子には手を出さないで!」
「黙れ、メグ。」
男はそう言うと、アレックスの手を掴んだ。
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