(何、泥棒?)
アレックスはサイドテーブルの引き出しにしまってある拳銃を取り出して逆鉄を起こすと、ゆ
っくりと一階へと降りていった。
物音はジョージの書斎から聞こえてきた。
なるべく足音を立てないようにアレックスが書斎へと向かいドアを開くと、中には目出し帽を被った二人組の強盗が金庫をこじ開けようとしていた。
「おい、まだか?」
「ああ。」
アレックスがドアの向こうに立っていることに気づかない彼らは、バールのようなもので無理やり金庫を開けようと必死だった。
「泥棒!」
ドアを開け、部屋の明りをつけたアレックスを見るなり、強盗が彼に襲い掛かってきた。
アレックスはためらわずに引き金を引き、銃弾を三発強盗の一人に撃ち込んだ。
「アシュリー様、一体どうなさったんです!?」
銃声を聞きつけたアーニーがジョージの書斎へと向かうと、そこには床に倒れた強盗と、拳銃を握ったまま震えているアレックスの姿があった。
「アーニー、警察を呼んで。」
「アシュリー様、お怪我は?」
「大丈夫だから。それよりも早く警察を・・」
「わかりました。」
数分後、パトカーが数台、タンバレイン邸の前に停まり、事件現場となった書斎では鑑識職員や刑事らが現場検証を行っていた。
犯人の返り血をつけた夜着を羽織ったまま、アレックスはダイニングの椅子に座っていた。
「それで、あなたが強盗を見つけたと?」
「はい、間違いありません。彼らは書斎にある金庫を開けようとしていました。バールのようなものを持って・・わたしの姿に気づいた途端、襲ってきました。」
「それで、撃ったと?」
「ええ。」
強盗事件で犯人に発砲したアレックスは、正当防衛が認められ罪を問われなかった。
小さな田舎町で起きた強盗事件は、当然のことながら注目を集め、たちまち全米のマスコミがこの町に集まり、中心部にあるホテルやモーテルの客室は満室状態となる日が続いた。
「全く、これからゆっくりできると思ったら、誰かさんの所為で安眠できないわ!」
タンバレイン夫人はそう朝食の席でアレックスを遠まわしに非難すると、ベーコンをフォークで突き刺した。
「ではあのまま、わたしが死ねばよかったのですか?仇敵の娘が死んだとなれば、それこそマスコミの餌食になりかねなかったでしょうに。」
「まぁ、あなたも言うようになったじゃないの。物静かなお嬢さんだと思っていたけれど、やはりあの家の血をひく娘だわね!」
今まで自分の言葉に決して逆らわなかったアレックスが急に反論し始めたので、タンバレイン夫人の機嫌はますます悪くなった。
「さてと、あなたの相手をしている暇はないわ。これから婦人会の会合があるの。」
「そうですか、お気をつけていってらっしゃいませ。」
タンバレイン夫人はアレックスを無視して、ダイニングから出て行った。
その日は一日中、アレックスは二階の部屋で読書や刺繍をしたりして過ごした。
テレビをつけると事件のことばかりどのチャンネルもやっているので、余り観たくはなかった。
「どこか出かけるか?」
「いい。今出て行ったらマスコミに付け回されるから。」
「そうか。」
ウォルフはそう言うと、テレビをつけた。
案の定、画面にはタンバレイン邸の前でリポーターが嬉々とした様子で事件の詳細を話していた。
ウォルフは苦々しい顔をしてリモコンでチャンネルを変えると、メロドラマの再放送を観始めた。
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