「何処まで話そうかしら?あなたの本当のおじい様・・ジャックのこと。」
「あの人は一体、どうして俺を連れて行こうとするの?」
「それは、あなたがハノーヴァー家の血を唯一ひく子だからよ。わたしは、あの家から逃げたいばかりにあなたのお父さんと結婚してNYに住んだのに、結局戻されてしまったわ・・」
メグはそう言って言葉を切ると、溜息を吐いた。
「一体、その人と何があったの?」
「あの人はね、この家の人たちよりももっと冷酷な人よ。彼が信じているのは一族の名と血統と、金だけ。」
メグは深呼吸すると、再び話し始めた。
ハノーヴァー家の娘として生まれたメグだったが、女児の誕生に落胆したジャックは彼女をマックスとその妻の元へ養女として出した。
その後後継者となる男児に4人も恵まれたジャックは、成人した娘がNYで結婚し、男児を儲けていることを知り、彼女を取り戻そうとした。
だがそれを知ったメグはアレックスを養父であるマックスに託し、実父の手の届かない所へと向かった。
しかしジャックに見つかり、メグはハノーヴァー家という名の檻に閉じ込められてしまった。
「もうお前にはわたしのような辛い思いをさせたくないの。だからあの時・・」
「競馬場で再会したとき、無視したんだね?俺を守るために?」
「ええ。ごめんなさい、アレックス。」
メグはそう言うとソファから立ち上がり、アレックスを抱きしめた。
「ママ、俺は一人じゃないよ。だから心配しないで。」
「そう・・それなら安心したわ。」
メグはそっとアレックスの手を握ると、ウォルフを見た。
「あなたがウォルフ?」
「はい、ミス・ハノーヴァー。」
「そんな堅苦しい呼び方はよして。メグって呼んでちょうだい。」
「すいません。」
「アレックスのこと、宜しく頼むわね。」
「わかりました。」
「じゃぁね、アレックス。身体に気をつけて。」
「うん。ママもね。」
別れの抱擁をアレックスと交わすと、メグは涙を滲ませながら部屋から出て行った。
「話はもう済んだのか?」
「ええ。ジャック、あの子はわたしたちとは一緒に行かないって言ったわ。」
「そうか。まぁ時間が経てば気持ちが変わるかもしれん。」
「さぁ、それはどうかしら?」
メグとジャックを乗せたリムジンがタンバレイン邸から出て行くのを窓から眺めていたアレックスは、今度母に会えるのはいつだろうかと思いながら、溜息を吐いた。
「心配するな、また会えるさ。」
「そうだね・・」
「さてと、これからルナの為に色々としないといけないことがあるな。出来るだけ早いほうがいい。」
ウォルフは床に置いていた紙袋から猫用のゲージを取り出すと、それを組み立て始めた。
「これでよしっと。後はルナが気に入ってくれるかどうかだ。」
アレックスがおそるおそるルナをゲージの中へと入れると、彼女は嫌がることなくベッドの中に入り、身体を丸くした。
「逃げ出さないように窓やドア、ゲージの鍵は必ず掛けろ。」
「わかったよ。」
その日の夜、アレックスが寝室で寝ていると、下から大きな物音が聞こえてきたので、彼は恐怖で身を震わせた。
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