正義がドアを開けると、地面には一人の学生が血まみれで倒れていた。
年の頃は自分と同じ20代で、アジア系だった。
「おい、しっかりしろ!」
正義は学生の身体を揺さ振りながら彼に呼びかけると、まだ彼は息をしていた。
『アリエル、医者を呼んできてくれ!』
『わかったわ!』
アリエルはランプを掴むと、医者を呼ぶ為に暗闇の中を走っていった。
医者が到着するまで、正義は学生が胸から出血していることに気づき、傷口を止血した。
「聞こえるか?しっかりしろ!」
「う・・」
学生は、血塗れの手で正義の腕を掴んだ。
ゆっくりと彼は目を開けた。
「正義・・」
「何故、俺の名を知ってる?」
「俺のことを、忘れたか?俺は、義則だ・・」
「まさか・・」
正義の脳裏に、日新館で共に学び、戊辰戦争で共に戦った親友の顔が浮かんだ。
「義則、義則なのか?」
「ああ、そうだ。久しぶりだな。」
「一体どういうことだ?何があったんだ?」
「普通に道を歩いていたら、通り魔にナイフで胸を刺された。」
「急所は外れているから、大丈夫だ。今医者が来る、それまで諦めるな!」
「わかった・・」
正義の親友・中田義則はそう言って目を閉じた。
数分後、病院に運ばれた義則は、一命を取り留めた。
『マサ、良かったわね。』
『ああ。アリエル、医者を呼んでくれてありがとう。』
『いいのよ。彼とあなたが親友だったのよね?』
『ああ。あの戦争が終わってから消息がわからなくなっていたが、こんなところで再会できるなんて思ってもみなかった。』
『よかったわね。』
アリエルはそう言うと、正義に微笑んだ。
『あのねマサ、この前のことだけど・・』
『あれは俺が悪いんだ。君の心を深く傷つけてしまったんだ。許してくれなんて軽々しいことは言えない。』
『いいの、わたしあのときどうかしてたのよ。その所為であなたに嫌な思いをさせてしまったわね、ごめんなさい。』
アリエルは正義に頭を下げると、彼に抱きついた。
『ねぇ、彼はどうしてあんな場所に居たのかしら?』
『通り魔に襲われたんだ。』
『通り魔?もしかして最近、ロンドン市内で多発してるっていう?』
『ああ。何処の誰なのかわからないから、不気味で仕方がない。』
アリエルとともに病院から出た正義は、昼間の喧騒と比べ、夜は静まり返ったロンドンの街を歩きながら、何処かの路地裏で通り魔が息を潜めているのではないのかという恐怖を抱き始めた。
『どうしたの、マサ?』
『いや、なんでもない。』
正義がそう言ってアリエルのほうへと顔を向けると、奥で何かが光ったような気がした。
『アリエル、危ない!』
きらりと鋭いナイフが光ったかと思うと、それは正義の肩先を切り裂き、石畳の路上に鮮血が飛び散った。
『誰か、助けて~!』
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