ジュスはただひたすら、庁舎へと走っていた。
囮となって住民達の命を助ける作戦など、彼自身も無謀過ぎると思っていた。
だが、そうしなければ、いつ肉片と化した弟の仇を討ってやることができるのか。
自分にしか出来ない事を今しなければ、弟の無念を晴らす日など永遠にやって来ない。
後悔しない為、そして弟の死を無駄にしない為に、ジュスは息を切らしながら銃を握り締めて走った。
やがて彼の眼前に、荘厳に聳(そび)え立つ庁舎の尖塔が現れた。
だが庁舎の前には武装した敵兵達が彼を待ち構えており、ジュスは敵の銃弾を全身に浴び、地面に倒れた。
(クソ、こんなところで・・)
敵の指揮官を殺せぬまま、このまま無様な死に方をするつもりはなかった。
ジュスは最後の力を振り絞り、隠し持っていた手榴弾の安全ピンを素早く抜き取ると、それを尖塔に向かって放り投げた。
手榴弾は尖塔の上空で炸裂し、眩い閃光と炎、そして爆風がジュス達を包み込んだ。
(エリン・・仇は、討ったからな・・)
ジュスはそっと目を閉じると、そのまま動かなくなった。
「何だ、今のは!?」
「爆発か!?」
突如轟音と爆風に襲われた住民達は、一斉にその場を伏せながら、一体何が起きたのだろうかと互いの顔を見合わせていた。
「どうやら、爆発は庁舎の方で起こったようですね。」
「まさか、ジュスが・・」
「彼はわたし達の為に犠牲となったのです。彼の魂が安らかであるよう、皆で祈りましょう。」
神官に倣い、彼らは啜(すす)り泣きながらジュスの冥福を祈った。
緊急事態を知らせる鐘の音が鳴り響いたのは、その後すぐのことだった。
「一体、今度は何が・・」
「見ろ、向こうの路地が燃えているぞ!」
「あっちの通りもだ!」
まるで巨大な蛇がとぐろを巻くかのように、瞬く間に町全体が炎に包まれ、住民達は逃げ場を失った。
「もう駄目だ、おしまいだ・・」
住民の一人がそう呟くと、拳銃を口に咥え、躊躇(ためら)いなく引き金をひいた。
それを合図に、他の住民達も次々と自殺した。
「もはや、これまで。」
町長は短剣で喉笛を突いて息絶えた。
敵軍がアイロスに進軍してから三日目の出来事であった。
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