※BGMとともにお楽しみください。
土砂降りの雨の中、エリスは自分の無力さと犠牲となったアイロスの住民達の為に涙を流した。
(わたしは無力だ・・何も出来なかった、誰も救えなかった!)
自分が剣を取ったところで、犠牲となるのはいつも弱者だ。
タシャンも、アイロスの住民達も、何の非もないのに殺された。
ユリノが望んでいる、戦いの先にある世界とは、強者が弱者を虐げる理不尽なものなのだろうか。
(ユリノ様は、変わってしまった・・)
まだ宮廷で平和な時を過ごしていた頃、彼女がいつも自分にこう言っていた事をエリスは突然思い出した。
“わたしね、いつか争いのない世界を作りたいの。”
その世界が完成するのはいつなのか。
「こんな所に居たのか、風邪ひくぞ。」
やがて雨が止み、雲の隙間から太陽が顔を覗かせた時、エリスの背後で愛しい人の声が聞こえた。
「セシャン、意識が戻ったのか?」
「ああ。それよりも、色々と辛かっただろう?」
セシャンはそう言うと、エリスを見た。
まるで、彼女の心を見透かしているかのように。
「どうした、わたしの顔に何かついているか?」
「お前・・その様子だと、まだ覚悟を決めていないようだな?」
「どういう意味だ?」
「ユリノ様はお前の親友だったが、今は違う。戦いとなれば、どちらかを殺さなければならないんだ。」
「わたしは、ユリノ様を殺したくない!」
「甘いぞ、エリス!戦場ではそんな考えは通用しない!お前がその甘い考えを捨てない限り、この先沢山人が死ぬことになるんだぞ!」
夫の言葉に、エリスは何も言い返せずに唇を噛み締めた。
「俺は今まで目の前で人が死んでいくのを沢山見てきた。自分の命を守る為には、人の心を捨てろ。」
「セシャン・・わたしは・・」
「こんな所で自分の無力さを嘆くよりも、剣を取れ。俺が言いたいことはそれだけだ。」
セシャンはそう言うと、エリスに背を向けて歩き出した。
(まだ間に合う・・こんな所で立ち止まっている暇はない!)
エリスは涙を拭うと、慌ててセシャンを追いかけた。
にほんブログ村