「来てくださって、ありがとうございます。」
「いや・・君とは久しぶりに話がしたくてね。それよりも契約書の件、考えてくれたかね?」
バロワ伯爵は、そう言うと自分の前に立っているスティーブを見た。
「大変申し訳ありませんが、この契約書はお返しいたします。」
「何だと!理由を言い給え!」
「さるお方から、あなたは悪辣な商売に手を染めているという噂を聞きましたので・・そういったお方と仕事をするのは、我が社のイメージダウンにも繋がりかねないと判断しましたので・・」
「君にそんな噂を流したのは誰だ?」
「それは言えません。」
「君がそのつもりならば、インドにある鉱山を諦めて貰わねばならないね。あそこは近々、我が社が所有することに・・」
「その件ですが、もう既にアムール卿がその鉱山の所有権を獲得しております。」
「まさか・・」
「その“まさか”です、バロワ伯爵。わたしはアムール卿と昨日商談を成立させました。あなたの汚れた金には興味はないということ、おわかりいただけましたでしょうか?」
悔しそうに歯噛みするバロワ伯爵に一礼すると、スティーブは“青の部屋”から出て行った。
「なかなか痛快だったぞ、お前にしちゃ。」
「褒めるな。」
「まぁ、あいつももう終いだろうよ。何せあいつが今までした悪事を、アムール卿が警察に告発しちまったんだからなぁ。」
レナードはそう言うと口笛を吹いた。
「アムール卿は、インドにお戻りになられたそうだ。」
「自分が経営する工場の従業員達と、バロワ伯爵の工場で働かされていたジプシー達と共に、彼は汗水たらして働いているだろうよ。どうやら俺達は、人を見る目があったようだな?」
「ああ、まったくだ。」
(何故だ・・何故こんな事に!?)
あのジプシー達を逃がしただけでも悔しいというのに、あの貴重な鉱山をアムール卿に奪われ、バロワ伯爵は怒りの余り血管が破裂しそうだった。
「旦那様、電報が届いております。」
「そこに置いておけ!」
執事が書斎から出て行くと、バロワ伯爵は電報に目を通した。
“お前はミスをした、その失敗を貴様の命で贖(あがな)え。”
その電報を読んだ時、バロワ伯爵は誰がこの電報を送ったのか見当がついた。
また自分は、“彼”の怒りを買ってしまった。
もうおしまいだ。
バロワ伯爵は机の引き出しから拳銃を取り出し、撃鉄を起こして銃口を自分のこめかみに押し当てると、躊躇いなく引き金を引いた。
「警察です、バロワ伯爵はおられますか?」
「申し訳ありませんが、主は外出中でして・・」
執事が家宅捜索へとやって来た警察にそう言って彼らを追い払おうとした時、二階の書斎から銃声が響いた。
「何てことだ・・」
警察が書斎へと踏み込むと、そこには部屋の主が拳銃を握ったまま床に仰向けになって倒れ、息絶えていた。
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Last updated
2013.09.07 13:57:38
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