「千尋ちゃん、おはよう。」
「総美(さとみ)ちゃん、おはよう。」
7月―千尋がいつものように教室に入ると、総美が笑顔を浮かべながら彼女の元へと駆けて来た。
「もうすぐ夏休みだけど、千尋ちゃんは何処行くの?」
「まだ決めてない。総美ちゃんは?」
「わたし?わたしは、湘南の別荘でママと一緒に過ごすんだ。」
「いいなぁ。」
「ねぇ千尋ちゃん、一緒に湘南に行かない?」
「考えてみるわ。」
二時間目は体育で、水泳の授業だった。
「荻野さん、また見学なの?」
「はい・・」
「体調が悪いのは仕方がないと思うけど、このままだと体育の単位を落とすわよ?」
「すいません・・」
千尋は体育担当の教師に頭を下げると、職員室から出ていった。
「千尋ちゃん、今日も見学なの?」
「うん・・」
更衣室でクラスメイト達が水着に着替えている中、千尋は制服を脱いで体操服に着替えた。
本当はみんなと泳ぎたいが、服を脱げば吉田が自分につけた痕をみんなに見られてしまう。
「体調が悪くて・・ごめんね。」
「そう。余り無理しないようにしてね。」
「わかった・・」
水着に着替えた総美はそう言うと、千尋の肩を叩いて更衣室から出て行った。
(総美ちゃんは、昔から変わってないね・・優しくて、強くて・・あたしとは大違い。)
「ただいま・・」
「お帰り、千尋。もうすぐ期末試験だね。ちゃんと勉強しているかい?」
「はい・・」
千尋はダイニングで夕食を食べながら、吉田がいつになく上機嫌な様子でワインを飲んでいることに気づいた。
「何かあったんですか?」
「まぁね。千尋、夏休みは何処に行きたいんだ?」
「総美から、湘南の別荘に一緒に行かないかって誘われていて・・行ってもいいですか?」
「構わないよ。」
千尋の湘南行きに反対するだろうと思っていた吉田だったが、彼はあっさりと千尋が湘南に行く事を許した。
「じゃぁ、お休みなさい。」
「お休み。」
その日の夜、吉田は千尋に手を出してこなかった。
(先生、何処かおかしいわ。一体何があったんだろう?)
吉田の態度に不審を抱きながら、千尋が部屋で勉強をしていると、誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「どなた?」
「拓人だよ、開けて。」
「わかったわ。」
千尋がドアを開けると、拓人はノートパソコンを脇に抱えながら部屋に入ってきた。
ライン素材提供:White Board様
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