「千尋ちゃん・・荻野千尋さんとわたしは、小学校時代の幼馴染で、彼女とは親友でした。」
荻野千尋の親友であり、トップフィギュアスケート選手・沖田総美と赤坂にあるカフェで会った歳三は、総美から千尋の家族―母方の祖父母と実母が義理の父親に殺害された事件を聞いた。
「事件は、わたしが東京に引っ越してから起きた事を、最近になって知りました。千尋ちゃんの義理のお父さんはスーパーを千尋ちゃんのお祖父さん達と経営していたけれど、Mモールが開店した所為で経営が大きく傾いて・・借金で首が回らなくて、保険金目当てに無理心中を図ったって、母から聞きました・・」
「そうですか、そんな事が・・」
「千尋ちゃんは暫く児童養護施設で暮らした後、温泉街にある遊廓の女将さんに引き取られたそうなんです。」
「温泉街の遊廓?」
「ええ。わたしの故郷には、江戸時代から続く置屋さんや遊廓があるんです。千尋ちゃんは温泉街の中で一番大きな遊廓で、花魁になる為の修行をしていたって、本人から聞きました。」
総美はそう言って溜息を吐いた後、コーヒーを一口飲んだ。
「沖田さん、あなたは千尋さんが妊娠していたことは知っていましたか?」
「いいえ。でも、千尋ちゃんは吉田先生の家で幸せに暮らしていると思っていたから、事件が起きた時はびっくりしました。土方さん、千尋ちゃんはまだ見つからないんですか?」
「ええ・・」
「千尋ちゃんを必ず見つけてください。わたし、千尋ちゃんの力になりたいんです。」
総美は椅子から立ち上がると、そう言って歳三に向かって深々と頭を下げた。
「では、わたしはここで失礼します。」
「もうすぐ世界選手権大会ですよね?頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
総美とカフェの前で別れた歳三は、警視庁に戻った。
「トシ、誰と会ってたんだ?」
「荻野千尋の小学校時代の親友で、フィギュアスケート選手の沖田総美に会ってきた。」
「沖田総美って、あのバンクーバーオリンピックで金メダルを獲った、あのさとみちゃんか?」
「近藤さん、彼女を知っているのか?」
「知っているも何も、彼女は“フィギュア界の妖精”って呼ばれているほどのスター選手なんだぞ!?トシ、サイン貰ってきたんだろうな?」
「サインなんて貰ってねぇよ。ただ、荻野千尋に関する話を聞いただけだ。」
「俺も呼んでくれればよかったのに。そしたらさとみちゃんとツーショットの写真が撮れたかも・・」
「あんた妻子持ちの癖に何言ってんだ。今あんたが言ったこと、つねさんに・・」
「やめてくれ、冗談だよ、冗談!」
近藤と歳三がそんな話をしていると、近藤のデスクにそなえつけられている電話がけたたましく鳴った。
「もしもし、近藤ですが・・」
『近藤さん、荻野千尋の目撃情報があった。』
「何だって!?原田君、今何処なんだ?」
『洞爺湖だよ。』
「わかった、今から行く・・」
「どうした、近藤さん?」
「トシ、さっき原田君から電話があって・・洞爺湖で荻野千尋の目撃情報があったそうなんだ。」
「何だって!?」
東京の病院から消えた荻野千尋が、何故洞爺湖に居るのか―その謎を解く為、歳三は近藤とともに北海道へと向かった。
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