「違うって!こいつは俺のダチで、千尋。」
「嘘つかないでよ!」
背の高い少女は、そう言うと拓馬の隣に立っている千尋の胸倉を突然掴んだ。
「あんた、うちの拓馬に手を出したら承知しないからね!」
「初対面の相手に掴みかかるとは、穏やかな挨拶じゃありませんね。」
千尋は少女を睨み、彼女の手を乱暴に振り払った。
「あんた、あたしに喧嘩を売ろうっての!?」
「いいえ、あなたのその乱暴な挨拶を改めようとしただけです。」
「エミ、もう行こう。」
「畜生!」
少女は千尋達に背を向けると、そのまま雑踏の中へと消えていった。
「拓馬、あの子達は?」
「ああ、あいつらは中学の時のダチ。さっきお前に掴みかかって来たのはエミってやつで、ちょっと厄介なんだよな。」
「そう・・」
「その話は後でするから、今は花火を楽しもうぜ!」
「うん。」
やがて花火が始まり、色とりどりの花が夜空に咲いた。
「楽しかったな、花火。」
「うん。拓馬、今日は誘ってくれてありがとう。」
「いや、いいんだよ。なぁ千尋、こうして二人きりで歩くのって、久しぶりだよな?」
「そうだね。確かこうして拓馬と河川敷を二人で歩いたのは、小学校5年の時だったっけ?」
「お前、よく憶えてんなぁ。」
「記憶力はいい方だから。拓馬、家まで送ってくれてありがとう。」
「じゃぁ、また塾でな。」
「うん。」
家の前で拓馬と別れた千尋が家の中に入ると、玄関先には男物の革靴が置かれていた。
「母さん、ただいま。」
「あらちーちゃん、お帰りなさい。」
「君が、千尋君かい?」
リビングのソファに座った眼鏡を掛けた男は、そう言うと千尋の前に立った。
「ちーちゃん、こちらパパの学生時代のお友達で、滝岡さん。」
「初めまして、千尋と申します。」
「いやぁ、可愛いね。君みたいな子が居たら、家の中が賑やかになるだろうな。」
「滝岡さん、主人はもうじき帰ってきますから、コーヒーでも如何ですか?」
「いいえ、もうお暇いたします。」
「そうですか・・」
「千尋君、またね。」
養父の友人・滝岡は千尋に向かって手を振ると、リビングから出て行った。
「母さん、あの人は一体何の用でうちに来たの?」
「さぁ、それはわたしにもわからないわ。」
荻野家を後にした滝岡は、その足で土方家へと向かった。
「荻野千尋の義理の父親には会えたか?」
「いいえ。彼は仕事で留守にしていました。それよりも土方さん、何故わたしにこんなことを頼むのですか?」
「君にしか、頼めないことだからだ。」
「そうですか・・」
滝岡は土方家のソファに腰を下ろしながら、歳信を見た。
「あなたは何故、荻野千尋に対してそこまで執着しているのですか?」
「それは君が知らなくていいことだ。」
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