『只今戻りました。』
『エルンストの所に行っていたようだな?』
『はい。ゲオルグさんにもお会いしてきました。元気そうでした。』
『そうか。エルンストから先ほど手紙が届いた。どうやら、あいつはわたしがお膳立てしなくても、運命の相手を見つけたらしいな。』
『ええ。』
『今にして思えば、お前をあの冬の夜にブタペストの街角でわたしが見つけたのは、運命なのかもしれないな。』
『そうですね。』
環がルドルフに抱きつくと、彼は環の唇を塞いだ。
『夜にわたしの所に来ないのは、何故だ?』
『仕事が色々と立て込んでおりまして・・』
『仕事を口実に、浮気でもしているのか?』
『いいえ、そのような事は・・』
『では、何故わたしの所に来ないんだ?』
ルドルフは環のドレスの上から彼の内腿を愛撫すると、彼は甘い喘ぎ声を漏らした。
『実は、エリザベスさんに家事を教えているのです。』
『お前が、エルンストの恋人に家事を?』
『結婚前に家事を一通り出来るようになりたいとエリザベスさんがおっしゃったので、わたしがエリザベスさんに毎晩家事を教えているのです。だから、ルドルフ様の元にお伺いできなくて・・』
『そうか。それでは、仕方がないな。だが、今ならいいだろう?』
『いけません、こんな昼間に・・』
『生憎今日の午後の予定は全てキャンセルした。だから、お前と二人きりでいられる。』
環は、結局ルドルフに流されるままに、彼に抱かれたのだった。
『また痕をつけましたね?』
『いいだろう、減るものでもないし。』
ルドルフはそう言うと、環の首に残した痕の上に強く吸い上げた。
『隠すのが大変なのですよ。貴方の場合、軍服の詰襟で隠せますが、ドレスや着物ではそうはいきません。』
『ではどうしろと?付ける場所を変えたらいいのか?』
『そういう問題ではありません!』
自分を揶揄ってくるルドルフに腹を立てた環は、床に散らばったコルセットを着た。
『何処へ行く、もう終わりか?』
『はい。』
『つれないな。』
ルドルフはそう言うと、環が結んでいたコルセットの紐を解き始めた。
『わたしは、貴方と違って仕事があるのです!』
『わたしに独り寝させる気か?』
『もう子供じゃないのですから、それくらい出来るでしょう?貴方が寝付くまで、枕元で子守唄を歌って差し上げましょうか?』
『人肌が恋しいんだ、それくらい解るだろう?』
『もう、仕方がありませんね。』
環はルドルフに抵抗するのを止め、彼の口づけに応えた。
『まだ、持っておいでだったのですね。』
環はシーツの中で寝返りを打つと、ルドルフが首に提げている懐剣を見てそう言った。
『お前から貰った、大切な物だからな。』
『そうですか。』
『長く引き留めてしまって悪かったな。仕事に戻れ。』
ルドルフに着替えを手伝って貰った環は、寝室を出る前に寝台の端に腰掛け、そこで眠るルドルフの髪を優しく梳いた。
『良い夢を、ルドルフ様。』
寝室の扉を環が閉めて執務室から外へと出ようとした時、ソファにはルドルフから待ちぼうけを喰らったヨハンがしかめっ面を浮かべて座っていた。
『もう、用事は済んだのか?』
『はい。ルドルフ様がお目覚めになるまでまだお時間がかかります。』
『ったく、今日はツイてねぇなぁ。』
ヨハンは環の言葉を聞くと、そう言った後溜息を吐き、天を仰いだ。
ルドルフが起きると、寝台の前には仁王立ちをしたヨハンの姿があった。
『漸くお目覚めか、皇太子様。』
『どうした大公、そんな不機嫌な顔をして。』
『お前の所為だろうが!』
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