「まぁ、貴方のような身分の方が幸さんのパーティーに招待されるなんて、思ってもみなかったわ。」
「あら、それは一体どういう意味かしら?」
環がそう言って富貴子に詰め寄ろうとした時、ルドルフが笑顔を浮かべながら彼の方へとやって来た。
『タマキ、こちらの方は?』
『ルドルフ様、こちらはわたしの友人の、幸さんです。』
『初めまして、サチさん。』
自分に笑顔を浮かべながら挨拶したルドルフに、幸は一瞬見惚れていた。
「どうなさったの、幸さん?」
「いえ・・環さんの旦那様が、余りにも素敵な方だったから、思わず見惚れてしまったわ。」
「あら、そうなの。折角だから、ルドルフ様と踊っていらっしゃいよ。」
「まぁ、いいのかしら?」
「いいに決まっているじゃないの。」
幸とルドルフが踊りの輪の中へと加わると、踊っていた招待客達が二人に好奇の視線を向けた。
―まぁ、あれは確か長谷川さんの所の・・
―見て御覧なさいな、幸様の嬉しそうなお顔・・
―踊っていらっしゃる方も、まんざらではないようね。
幸が踊る度に、裾の部分に縫い付けたエメラルドが美しい輝きを放った。
「あのドレス、貴方がお作りになったのですってね?」
「ええ、そうよ。」
「どうせ安物の生地で作ったのでしょう?そのドレスも、何だか幼すぎるわね。」
富貴子はそう言って環の粗を探すかのように、彼の全身を見た。
「貴方のドレスの生地の方が安物ではなくて?それか、誰かのお下がりなのかしら?」
環は富貴子のドレスに紅茶の染みを見つけてそう彼女に指摘すると、彼女は顔を赤く染めながらそのまま大広間から出て行った。
「環さん、こんばんは。」
「あら杉下さん、こんばんは。貴方がこのような場所に居るなんて珍しいわね?」
「わたしは社長のお供でこのパーティーに出席しているだけです。」
杉下は素っ気ない口調でそう言うと、環を見た。
「そのドレス、素敵ですね。」
「有難う。」
「では、わたしはこれで。」
杉下は直樹の姿を見つけると、彼の方へと駆け寄った。
「社長。」
「あぁ、杉下か。」
商談相手と談笑していた直樹は、忠実な部下の顔を見て持っていたワイングラスを使用人に渡した。
「先ほど話していらっしゃった方は、久保商会の久保子爵様ですね?」
「今考えている計画について、ちょっと話し合っていたところだ。杉下、ルドルフを呼んで貰えないか?」
「はい、解りました。」
杉下はそう言うと、幸とダンスを踊り終えたルドルフを呼んだ。
「ルドルフさん、社長がお呼びです。」
「解った。」
ルドルフが環の元へと行こうとした時、杉下が少し苛立った様子で彼の腕を掴んだ。
「環さんには、わたしから後で伝えておきます。」
有無を言わさず杉下に直樹の元へと連れて来られたルドルフは、そのまま馬車に乗せられた。
「何処へ行く?」
「それは着けばわかる。」
馬車で暫く坂道を走っていると、それは丸山遊郭の前で停まった。
「ここに一体何の用があるんだ?」
「それは来てみればわかる。」
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