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コチラからお借りいたしました。
「薄桜鬼」「薔薇王の葬列」二次創作小説です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
1853(嘉永6)年1月。
その日は、何年振りかの大雪に見舞われ、ヨーク藩の城下町は雪で白く染まっていた。
「リチャード、お前もこっちに来いよ!」
「いいです。わたしは・・」
「何遠慮してるんだ、雪合戦は楽しいぞ!」
長兄・エドワードと、次兄・ジョージはそう言うと、嫌がるリチャードの腕を無理矢理引っ張り、雪合戦に参戦した。
はじめは兄達に遠慮していたリチャードだったが、やがて彼らと雪玉を投げ合う内に笑顔を浮かべるようになった。
「何をしているの!」
「母上、リチャードと一緒に雪合戦をしているだけですよ。そんなに怒らなくても・・」
「リチャードが病弱なのは知っているでしょう?」
リチャード達の母・セシリーはそう言うと、リチャードの頬を容赦なく叩いた。
「お前が兄達を誑かしたのね、この化け物!」
「母上、お願いですからリチャードを苛めないでやってください。」
咄嗟にリチャードをエドワードが庇ったが、リチャードは泣きながら森の中へと駆け出していった。
“化け物!”―物心ついた頃から、リチャードはセシリーにそう罵られて育った。
母親への愛に飢えていた彼は、彼女から言葉の暴力を受ける度に、その小さな心に傷を抱えながら生きて来た。
(母上は、わたしがお嫌いなんだ・・だからわたしの事を苛めるんだ・・)
「どうしたの?こんな寒い森の中で震えて・・」
頭上から突然声が聞こえたので、リチャードが顔を上げると、そこには雪の精と思しき銀髪金眼の女だが立っていた。
女の頭部には、六つの角がついていた。
「貴方はだぁれ?」
「わたしは貴方の味方よ。貴方の名前を教えて?」
「リチャード。」
「リチャード・・美しい名ね。リチャード、また会いましょう。」
そう言うと女はリチャードを優しく抱き締めると、何処かへと消えていった。
その後リチャードはエドワード達に森に一人で居るところを見つかり、翌日熱を出して数日間寝込んだ後、リチャードの頭の中からはあの女の事は綺麗さっぱりなくなってしまった。
10年後―1864(元治元)年1月、京。
泣き虫で臆病だったリチャードは、美しく成長した。
「兄上、お呼びですか?」
「おお、来たかリチャード。今度新しい着物を誂えようと思ってな。どうだ、似合うだろう?」
「はい。とてもよくお似合いです、兄上。」
緋色の地に龍の刺繍が施されている布を見たリチャードは、華やかな兄に良く似合うと思った。
「お前もいつも黒ずくめの格好などやめて、少しは着飾れ。」
エドワードはそう言うと、白地に黒い蝶と薄紅色の小花を散らせた振袖をリチャードに羽織らせた。
「お戯れを、兄上。」
「何を言う、お前はこの世の誰よりも美しい。母上に気兼ねする事などないのだぞ。」
「兄上・・」
リチャードが二人の兄達と共に上洛してから早一年が過ぎようとしていた。
セシリーが居る国元から遠く離れ、リチャードは武芸の稽古を欠かさずにし、それに加えて華道や茶道、裁縫などの女子の嗜みも毎日こなしていた。
艶やかな黒髪に半ば隠されたその美しい華の顔を一目拝みたいと、リチャードの元には山ほど恋文が届いたが、リチャードはそれらを全て燃やした。
(俺は、普通のものなど望めない。俺は化け物なのだから。)
幼き頃にセシリーから掛けられた呪いが、未だにリチャードの心を責め苛んでいた。
結局完全に乗り気になった女中達に着付けをされ、髪を結われてしまったリチャードは、鏡の前に映った己の姿に絶句した。
何処からどう見ても、今の自分の姿は高貴な武家娘か、大店の令嬢にしか見えない。
「まだ京見物をしていなかったな、リチャード?俺達に遠慮せずに行ってこい。」
「はい・・」
長兄の言葉に甘えたリチャードは、供を連れずに京見物をした。
白い雪に染まる京の街は何処か幻想的で美しかった。
リチャードが真紅の傘を差しながら橋を渡っていると、向こうから誰かの悲鳴が聞こえた。
「さっさと金出しな。そうすれば痛い目に遭わねぇよ。」
「やめてください・・」
リチャードが人気のない路地裏へと向かうと、そこには恰幅がいい二人の男達が、金髪の優男から金を集ろうとしていた。
「男が二人掛かりで弱い者苛めか、情けない。お前達の腰に差しているのは竹光か?」
リチャードが口元に嘲笑を閃かせながら男達の前に出てそう言うと、彼らは憤怒で赤くした顔を彼女に向けた。
「女は引っ込んでろ!」
「待てよ、こいつはぁ上玉だ。痛めつけるよりも、俺達で楽しもうぜ?」
男達は下卑た笑いを浮かべながら、じりじりとリチャードとの距離を縮めていった。
「俺に気安く触るな、下衆が。」
リチャードはそう言って男達の足元を素早く払うと、彼らの喉元に懐剣を突きつけた。
「命が惜しくば、去れ。」
「畜生!」
男達が去った後、リチャードは路上に蹲っている優男に向かって手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
―靡く漆黒の髪の美しさに、僕は目を奪われた。そして僕は、彼女と目が逢った瞬間、彼女と恋に落ちてしまったのだ―
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