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カテゴリ:恋愛小説
ちぎれた夕陽 (4)
「あのさあ、いつまで待ったら返事してくれんのよ!」
マキとの出会いの思い出に浸っていた佑は、我に返って顔を上げた。 それでも佑は、・・・・・?のまま。 フー・・・これはマキのため息。
「あのさあ、あと一回きりしか言わないからね、いい?」
こういうときのマキには、逆らわないのがベストだと、佑にも分かっている。
「あ、うん分かった」 「さっき、あんたはこう言った。『憧れも・・・あったよ、正直に言えば』」 「うん、そう言ったな・・・たしかにそう言った」 「で、あたしが聞いたの・・・『憧れの片割れは、どうすんのさ』ってね」
言い終わるころには、マキの顔が佑の目と鼻の先にあった。 佑は必死になって、自らの思考回路に高速回転を懇願する。
「憧れの片割れは、マキも知ってるように音楽だけど・・・もう、なんかぜんぜん ・・・なんていうか、熱くなれないっていうか・・・」
「馬鹿野郎!オーディション受かったんだろうが!なんだよ、熱くなれないって!」
マキは、爪が食い込みそうなほど、両の拳を強くにぎりしめて佑を睨みつけている。 けれど、今日の佑はマキの視線にビビらないどころか・・・
「うるさい!馬鹿っていうな!仲間から何度も、馬鹿だ馬鹿だって言われて・・・ それでも反論できなくて!・・・・・・」
(こりゃあ、半端なダメージじゃないな・・・)マキは野性的な直感の持ち主だった。 (次の台詞は、しゃべる気になるまで、待ってやるっきゃないか・・・)マキは、 腰を下ろすと、柱にもたれ掛かり、長い足を伸ばして、左足の上に右足を乗せた。 両腕を胸の前で組み、何も言わず、顔だけを窓に向け、夕陽をながめている。 佑に教えられて初めて気づいた、ビル群の上にかかる、 「ちぎれた夕陽」を・・・
すぎてゆく時を、マキが忘れかけたころ、佑が口を開いた。
「受かったのは・・・ヴォーカルとしてだけなんだ」
「ん?曲の方は・・・だめだったのか?」 「ああ、『ヴォーカルとして、ソロで売り出そうじゃない。君に合う曲待ちってことで、 毎日でも、事務所に顔を出してよ』 って言われたんだ。ディレクターの伊藤さんに」
がばっと前のめりになったマキは言った。
「何だよ、すごいじゃないか!曲待ちってことはデビューできるってことじゃないか!」
今度は、佑の目がマキを睨んだ。
「なんだよ、その目は・・・」 「わからないのか、向こうはソロでって言ってるんだぜ!長いこと一緒にやってきた バンド仲間に、じゃそういうことだからって!そんなこと言えるわけないだろ!」
佑の憧れは、東京で暮らすこと。そしてその『憧れの片割れ』が、今となっては憧れよりも はるかに大事な、バンド仲間といっしょの「音創り」になっていた。 佑の偽りのない思いを知ったマキは・・・
(なんか、好きとか、超しちゃった。惚れちまったじゃないか、こんちきしょー!)
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