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テーマ:法律(493)
カテゴリ:憲法
憲法判例編 第2章 法人の人権について さて、前回までは外国人の人権についてお話しました。 では、今回は法人の人権です。 法人とは自然人(生身の人間)以外で法律上権利の主体となる物を言います。 早い話、会社などの団体をいうと思ってくださって結構です。 さて、法人には人権があるのでしょうか。 外国人と同じく、憲法では国民の人権のみを保障しているように見えるので問題となります。 まず問題となったのは、法人である会社に政治献金の自由があるか否かです。 自然人である国民には政治活動の自由として政治献金の自由があります。 そして、政治活動の自由は表現の自由の一つとして保障されています。 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。 ○2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。 では、法人に政治献金の自由は保証されるのでしょうか。 判例はこのように判断しています。 「憲法第三章に定める国民の権利及び義務はの各条項は、性質上可能な限り内国の法人にも適用される。(八幡製鉄事件・最判昭和45年6月24日)」 つまり、政治献金に限らず、人権の性質上可能な限り法人にも保障されています。 そうなると、何が性質上法人には保証されない権利なのか気になりますよね。 法人に保障されない権利とは、人身の自由(第十八条 何人も、 いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。)とか、選挙権(第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。 ○3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。) など、法人に保障するのが無意味な権利などです。 しかし、法人は必ず自然人(=生身の人間)で構成されますから、 法人と、構成員の意思が食い違う場合がありえます。 法人は各構成員の意思を無視して、多数決で政治献金の決定をしてもいいのでしょうか。 法人に参加する以上意見が食い違うのはやむを得ないし、その法人の方針が気に食わないなら法人から脱退すればいいと思うでしょう。確かに原則はその通りです。 では、そう簡単に脱退できない場合はどうでしょうか。 つまり、税理士会のように税理士として活動するには必ず加入しなければならない法人の場合はどうでしょうか。 例えば、ある税理士会がA政党に政治献金をする決定をしてしまった場合、B政党を応援する税理士はそれに従わねばならないのでしょうか。 税理士として活動するには税理士会に加入しなくてはなりませんから、税理士会の方針が気に食わないからと言って脱退するわけには行きません。 ということは、B政党を応援する税理士は、A政党を応援する税理士会の方針に従わねばならないのでしょうか。これではB政党を応援する税理士の政治献金の自由を侵害したことになります。 そこで、判例はこう判断しました。 「税理士会が政党など・・・に金員の寄付をすることは、・・・目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効である。税理士会が、強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、・・・会員に要請される協力義務にもおのずから限界がある(南九州税理士会事件・最判平成8年3月19日)」 つまり、税理士会のように加入が強制される団体の場合は、政治献金をする自由まで認められていないし、構成員に政治献金の決定を強制できないということです。 つまり、原則として法人には権利の性質上可能な限り権利が保障されますが、脱退が不自由な法人の場合は保障されない場合もありうるということです。 また、ここまでお読みになると「結局法人と外国人の権利の保障の度合いは同じなんだな」とお考えになる方も多いでしょう。 しかし、厳密に言えばそれは誤りであり、行政書士試験などをお受けになる方は注意してください。 外国人の場合は権利の性質上日本国民のみをその対象としていると 解される物をのぞき、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶとされており、原則として外国人には日本国民と同等の権利が保障されるが、例外として若干の権利のみが保障されないのです。 しかし、法人は別に原則として権利が保障されるのではなく、権利の性質上可能な物については保障されるのです。 感覚的には、外国人はまず満点が与えられて上での減点法で権利が保障され、法人には0点を出発点として加点法で権利が保障されると言う感じです。 結構間違えやすいので、ご注意ください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年02月19日 13時37分09秒
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