産経歌壇 今年の6首 伊藤一彦・小島ゆかり選
産経歌壇 今年の6首伊藤一彦選車に乗り行く当てもなくハンドルを切りて走れば友の墓に着く大阪・堺市 鈴木武雄「アカシアの雨がやむとき」が包み込む棺の叔父と泣いてる叔母を大阪・羽曳野市 西村真千子秒速で届くLINEよりバイク音とコトリと音する郵便が好き静岡・下田市 倉内野梨子シュレッダーの紙屑すべて湘南の釜揚げシラスならばいいのに神奈川・横浜市 杉本ありさピンポーンが鳴って「わたし」という人が来た鍵を忘れたと妻が大阪・高槻市 東谷直司サイバーテロ警戒と政府「妻婆さいばあは確かに怖い」と父は言うなり群馬・前橋市 西村晃小島ゆかり選おテイさん吾を呼ぶ声がふと声が聞こえてきそうな長き秋の夜石川・中能登町 神前貞万緑に白髪を染めるやう妻は帽子を脱いで風を呼び込む兵庫・明石市 小田慶喜黄砂にて霞める瀬戸の島々はけものの眠るごとく静けし岡山・玉野市 古川一郎春来れば春に匂いのあることを思い出させてこの春はゆく奈良市 河野久恵寺うらに羽虫ながれて右ひだり風のかたちであってまたなくて東京・渋谷 朝倉修鉢植えの防寒用の新聞にプーチンの名のあるを除外す秋田市 小林純子産経新聞 12月28日付〔坂本野原 寸評〕近年は産経新聞しか読んでいないので、これだけご紹介しておく。選者のお二人は、いずれも歌壇の重鎮。とりわけ小島さんは、お嬢さんのなおさんも歌人として第一線で活躍しておられる。五七五七七という定型韻律を持った、たったの31音(三十一文字みそひともじ)で、おまけに1300年にも及ぶ分厚い歴史の中で発想の前例・類例がないか(パクりになってないか)にも注意する必要のある、短歌という唯一無二の詩形。考えてみれば、僕らはけっこうめんどくさいことをやってるわけだ。・・・興味がない人から見れば、ヲタクの変態趣味としか思えないであろう そんな中で、皆さん(多少字余り破調になったりしながらも)黒光りするような重厚・清冽な詩のきらめきや、くすりと笑わせる軽妙洒脱な機知の閃きで自ら楽しみ、読者を楽しませてくれる。とても勉強になる。特段言いたいこともないのだが、ひとつ言えるとすれば、短歌という国民文学が滅びることは絶対にないなという確信である。