カテゴリ:政治
日本政府による市民に対するテロ行為を準備し実行に移すための法律が参院で可決され成立した。
テロ等準備罪処罰法案について(法務省) 国内で論議を呼んだこの法律の成立は海外でどのように報道されていたのだろうか。「テロを含む組織犯罪対策において国際協力を推進する」という主張が本当であれば世界から称賛されてしかるべきであるが確認していこう。 まずは通信社の報道を見てみよう。 日本は論議を呼んだ犯罪の計画に対する法案を可決した Japan approves contentious bill against planning crimes (2017/6/15) Associated Press(AP通信)(Fox News HPにリンク) この記事はABC News、Fox News、Washington Post等のHPに掲載された。与党側の主張と野党側の主張を交互に紹介した中立的な印象を与える記事となっている。ただ国連特別報告者の「深刻な憂慮」を示した書簡に触れている所で相当与党側に疑問を抱かせるのではないだろうかと感じた。 当初の記事では5,000人が国会前で抗議していたとなっていたが、後に「かなりの人数」と改変されている。 日本の連立与党はプライバシーに関する懸念にも関わらず対共謀法案を通過させた Japan ruling bloc pushes through anti-conspiracy bill despite privacy concerns by Linda Sieg (2017/6/14) Reuters(ロイター通信) AP通信の記事とは対照的に、はっきりとこの法案に否定的な立場で書かれている。最初の方で国連特別報告者が法案に「欠陥がある」と呼んだことを伝えた後、2020年のオリンピックを控えテロ防止において国際社会と協力するために法案が必要だという与党側の主張を最低限紹介している。そのあとは277の犯罪計画準備を有罪化することに対して、テロとは明確な関係のない行為が含まれるという日弁連の懸念や、蓮舫氏の思想の自由を犯す「凶暴な」法律という言葉を紹介する他、とどめに戦前の思想警察に言及するなど8割以上が法案批判に割かれている。 次は高級紙ワシントンポスト、イギリス公共放送BBC、経済記事に定評のあるBloombergも自前の記事を掲載しているので見て行こう。 日本では首相が議論となる「対共謀」法案を推し進めている In Japan, prime minister pushes ahead with controversial ‘anti-conspiracy’ bill by Anna Fifield (2017/5/22) The Washington Post(ワシントンポスト) こちらは法案が衆議院を通過する前の段階の記事。衆院で法案が可決される見通しや憲法改正を目指していることを伝えている辺りまでは中立的に見えるが、安倍氏に批判的な上智大学の中野晃一教授のコメントや、大阪弁護士会会長の小原正敏氏、アムネスティ、グリーンピースの言葉を紹介するなど明らかに法案に疑問を抱かせる記事となっている。 さらに安倍氏の憲法改正へ意欲を示した突然の声明を取り上げ、祖父岸信介の意志を継いでいるとみなされているということも説明している。その近くには「極右の学校への秘密の献金疑惑」に関する記事へのリンクが張ってある。海外の読者にからすれば、安倍氏にも相当な不信を抱くのではないだろうか。 日本は論議の的となったテロ対策共謀罪法を通過させた Japan passes controversial anti-terror conspiracy law (2017/6/15) BBC News(BBCニュース) 法律についての政府側の主張と、それに対する批判をほぼ同じ分量載せており中立的に見える。 安倍氏は論議の的となった日本の監視力を強化する法律を通過させた Abe Passes Controversial Bill Boosting Japan Surveillance Powers by Andy Sharp (2017/6/15) Bloomberg(ブルームバーグ) 犯罪の計画段階で逮捕できるようになることや、オリンピックを前にしたテロ対策強化のために必要という政府の主張と、法律が曖昧であることや市民の自由を抑圧するという批判側の主張が取り上げられている辺りはこの記事を含めて多くの記事で共通している。 この法案の成立が安倍氏の平和憲法改正の野望への道を開くものだとしている点はこの記事の面白い所だろうか。安倍氏の目標である憲法改正のための国民投票と日本の戦争への参加は市民をコントロールするための新しい手段を必要としており、今回の法案はそういうことに適合しているという中野晃一氏のコメントを紹介している。さらにジョセフ・ケナタッチ氏の安倍氏への公開書簡とそれに対する菅氏の「不適切だ」という反論。ここまで読むと日本政府に対して「う~ん、どうだろうね」という印象をもつ海外の人も多いはずだ。 何千という人が国会周辺で反対デモを行ったことにふれ、その写真も掲載されている。世論調査で今回の法律については意見が割れていることや依然内閣支持率が高いことなども取り上げている。おぢさんが外国人であれば日本国民に対しても「う~ん、どうだろうね」という印象をもちそうな記事となっている。 リベラルと云われるニューヨークタイムズとガーディアンも見ておこう。 日本では監視社会の懸念にも拘らず共謀罪法成立に向けて動いている Conspiracy Bill Advances in Japan Despite Surveillance Fears by Motoko Rich (2017/5/23) The NY Times(ニューヨークタイムズ) 冒頭に法案に反対する群衆の写真が掲載されている。国連特別報告者の手紙にふれた直後に、安倍氏が国連の組織犯罪防止(TOC)条約を批准するためにこの法案が必要だと主張していたことを指摘し、安倍氏の主張の矛盾を際立たせている。 安倍氏が2年前には安全保障関連法案を反対を押し切って成立させたこと、世論調査で四分の三以上の人が政府の説明は不十分だと答えていることが述べられている。 さらに、ケナタッチ氏のEメールから、日本政府は世界的な民主主義国家のように必要な時間をかけるべきだという意見を紹介している。そして、テロとは関係のない行為までもが対象とされるという批判側の意見や、中野晃一氏、専修大学教授山田健太氏、京都大学教授高山佳奈子氏の意見など法案に対して批判的な記述が8割方を占める。法案に賛成の木村圭二郎弁護士の金田法相擁護発言、自民党平口洋議員の法案は犯罪集団に限られており一般人は対象とならないという旨の発言も紹介されてはいるが、明らかに法案反対の側に立った記事となっている。 日本は市民の自由を冒す懼れにも拘らず「凶悪な」対テロ法を成立させた Japan passes 'brutal' counter-terror law despite fears over civil liberties by Justin McCurry (2017/6/15) The Guardian(ガーディアン) タイトルも内容も明確に法案に批判的。「法案は市民の自由を弾圧するのに使われる可能性があるという国連の警告にも拘らず、日本はテロやその他重大な犯罪の共謀を対象とした議論を呼ぶ法案を成立させた」という冒頭から印象は悪い。 国会の周りで何千という人が反対する中で与党側が可決したこと、国連の専門家が欠陥法案と呼び、それが安倍氏の怒りを買ったことが書かれている。 オリンピックやラグビーのワールドカップを控えてテロ対策強化のために法律が必要であるという政府側の主張や、組織犯罪を対象とした条約を批准してテロを防ぐために国際社会と協力するために法律を制定したという安倍氏の言葉も紹介されているが、もはや「何言ってるんだろうなこの人は~」という風にしか聞こえない。 テロや組織的犯罪と関係のないアパート建設反対の座り込みや音楽の違法コピーが法案の対象とされてしまうという日弁連の指摘。法案は安倍氏の国家権力強化策の一部であり、一般市民を怖じ気付かせることを狙っているという反対側の見解。蓮舫氏の「凶暴な法律」という言葉、政府の政策に反対する草の根の運動を押し殺してしまうという懸念、委員会採決省略というまれな進行、表現の自由やプライバシー権の不当な制限につながる、「欠陥法法案」を通すために「恐怖心理」を使っているというケナタッチ氏の指摘、等々批判が続く。 アラブにも目を向けてアルジャジーラも見てみよう。 テロ対策法可決に対して抗議の声が上がる日本 Protests in Japan as anti-conspiracy bill passed by Mia Alberti (2017/6/16) Al Jazeera(アルジャジーラ) 冒頭に法案に反対するデモをする人々を写した写真(共同通信社による)を掲載して「木曜日、日本政府はテロやその他重大犯罪の共謀を対象とする議論を呼んだ法案を成立させた」という出だしで始まっている。 過去二日間東京で何千という人々が抗議行動を行い、水曜日には5,000人以上が国会の周りでデモを行ったとしている。反対デモの動画がリンクされていて。抗議活動の盛り上がりに目を向けている。 そのあとに、法案はオリンピックを前にしての犯罪に対する国際的な取り組みの一環であるという政府側の説明や、法案は国民を守りTOC条約に必要で犯罪を未然に防止するためのものだという安倍氏の話を挟んでいる。 しかし、すぐさまそれに対する批判側の主張を取り上げている。 「法案は権力の乱用であり、表現の自由に対する憲法違反の攻撃である」 「この法律は政府が如何にテロ対策を一般市民に対する監視の口実として使うかの最悪の例であり、再軍国化と反体制派の弾圧を目指したものだ」 ケナタッチ氏の言葉もしっかりと取り上げている。さらにエドワード・スノーデン氏の共同通信社のインタビューを紹介し、この法律について「日本の監視社会化への新しい波だ」という彼の言葉などを伝えている。 この記事も民衆を抑圧する法律を押し通す怪しい政府という印象になっている。 メジャーなメディアをこれだけ取り上げたが、日本がテロ対策を行うことを称賛している気配はまったく無かった。多くの記事が法律に対して批判的であり、良くても中立といったところだろうか。 あるいは大衆紙と呼ばれるものには違う見解があるかもしれない。大衆紙が日本政治などあまり取り上げそうもないこともあり調べてはいない。 海外から注目を浴びたわけでもないが、それなりにフォローはされていた。記事ごとに温度差はあるもののこれらの記事を外国の人が読んだとしたら「日本ってあまり民主的な国家じゃなさそうだな」という印象を持たれるだろう。 海外からの見た目のために日本の法律があるわけではないので、印象は気にする必要はない。ただ、自分たちを疑ってみるヒントにはなる。 久々に海外記事をチェックして感じたのは日本国民のガラパゴス化、あるいは戦前に見られたような国内世論と世界との乖離、そして孤立だった。 国内で非難を浴び、海外からも疑念を持たれるこの法律は本当に必要なのか問題がないのか少し疑ってみてもいいかもしれない。 この法律を成立させた政府は本当に我々の政府なのか、組織的犯罪集団なのか? にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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