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意外な戦史を語る~  カモメとウツボのメクルメク戦史対談

意外な戦史を語る~ カモメとウツボのメクルメク戦史対談

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2013.02.15
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カテゴリ:戦争と文学・陸軍
(カモメ)進藤中尉の咎めるような視線に、村上中尉はその場にいたたまれず、用事を思い出したような振りをして、部屋から逃げ出しました。

(ウツボ)すると、追いすがるように学校副官の兼松少佐が出てきた。彼は「進藤中尉らが村上中尉を敵のスパイではないかと疑っているから注意したほうがいい」と告げた。

(カモメ)村上中尉が陸軍省副官、藤山中佐の名前を出すと、兼松少佐は「そりゃいかん、その名前はここでは禁忌(タブー)なのだ」と言ったのですね。

(ウツボ)そうだね。藤山中佐は降伏の気配に彼の許に集まってきた将校たちにむかって、いちはやく恭順の意を説いたので、過激派から裏切り者の烙印を打たれていたのだ。

(カモメ)そこで初めて村上中尉は陸軍省を訪れた際の藤山中佐の疑い深い眼差しや冷ややかな態度の鯨飲を諒解したのです。

(ウツボ)その後、村上中尉は学校本部でとうとう進藤中尉に呼びつけられた。村上中尉は会議用の大きなテーブルを挟んで進藤中尉と向かい合った。

(カモメ)部屋には灯りが点っていなくて暗かった。進藤中尉は沈重な態度を見せて長い間押し黙っていました。そのあと次のように切り出したのです。

(ウツボ)「もしも、このクーデターが成功したならば、貴様は生きておるつもりか」。

(カモメ)村上中尉は、この場合、どう答えたらよいかを、頭の中で計算して、「その場合には潔く自決するつもりだ。なぜなら聖旨にさからい奉ったことになるからだ」と答えました。

(ウツボ)進藤中尉はうなずいて、それから、ピストルを抜き出した。そうして、机の上でそれをいじりまわしながら、奇妙に充足した笑みをうかべた。

(カモメ)そしてカチリと安全装置のバネをはずし、銃口を次第にもたげて、村上中尉に向かってピタリと照準しました。

(ウツボ)村上中尉はこの男の真意は捉えかねたが、まさか自分を射つとは考えられなかった。そのままの姿勢で相手の出方をうかがっていた。

(カモメ)すると村上中尉にむけられていた銃先は、ゆっくりと天井に向かって逸れてゆき、そこで轟然火蓋が切られたのです。

(ウツボ)廊下から、「馬鹿野郎、また暴発しやがった」という声が、ドアの隙間を漏れて伝わってきた。

(カモメ)こうして過激派の村上中尉に対する奇妙な洗礼は無事終わったのですね。

(ウツボ)そうだね。以上、村上兵衛氏の「星落秋風」の一部分を抜粋して見てきた。冒頭でも述べたが、太平洋戦争を体験した多数の軍人の書いたものと違い、村上氏のこの作品は、その出だしで「予は、生粋の軍人の身にありながら、忠義の念慮においてつねに欠くるきらいがあった」と述べているように特異な背景で構成されている。

(カモメ)出版されている職業軍人の著書は、軍人は軍人らしく、ベストを尽くして戦ったという戦記や体験記が多いですね。

(ウツボ)その中で、陸軍士官学校を優秀な成績で卒業したエリートで、このように「忠義の念慮においてつねに欠くるきらいがあった」と自分を表現する軍人は、ほとんど、他には見当たらないね。

(カモメ)村上氏の著書の多くは、軍人としての画一的な生き方ではなく、軍人という鎧の中身、人間そのものを見渡しており、その真実の姿を浮かび上がらせていますね。だから現代の人にも、共感できるものがありますね。

(ウツボ)そうだね。このようなスタイルについて、村上兵衛氏は「星落秋風」の内容が所収されている「桜と剣・わが三代のグルメット」(村上兵衛・光人社)の「あとがき」で、次のように述べている(抜粋)。

(カモメ)読んでみます。「しかし、三代のグルメット(刀をつるすくさり)となると、陸軍七十年の歴史を、いわば内側から、できるだけプライベートな側面を加えて描くことによって、なんらかの意味を持ち得るかもしれない、と考えた」

(ウツボ)「軍人についてのステレオ・タイプの描写には、私もずいぶんお目に掛かっている。しかし、軍人も要するに人間であり、時代の子であって、とりわけ、その私生活や本音をふくめた軍人像には、知られない部分も多い」

(カモメ)「しかも、帝国陸軍は、今はなく、社会の様相も人々の考え方も大きく変わった。軍人について、私が見たところ、体験したところを、できるだけ忠実に、また、私が身をおいた陸軍の時代的背景、その変容について、私なりに感じているところを、できるだけ自由に叙述してみるのも面白い。そんな風に思い始めた」。

(ウツボ)村上兵衛氏の陸軍士官学校の同期生の三分の一、広島幼年学校のクラスメート(第一訓育班)の半ばが、戦死している。

(カモメ)村上兵衛氏は「それらの仲間が、ものがたりの後半をささえてくれている」と述べています。

(ウツボ)戦後東大で学び、文学者としての道を歩んだからこそ、このようなスタイル、文学的価値の高い著作ができたのだろうね。

(カモメ)しかし、同期生は多数戦死していますが、村上氏自身は、内地にいて戦地に出征していない訳ですね。もし村上氏が戦地に行き過酷な戦闘を経験していたら、このような文学スタイルは、生まれてこなかったでしょうね。

(ウツボ)そうだね。戦地に行かなかったからこそ、このような稀有な作品が生まれた。単なる軍人の回想録ではなく、文学作品として世に出てきた。

(カモメ)読者である我々にとっては、これまでの普遍的な軍人像と違ったシーン、そこに文学的な創作が感じられるのですが、それが「そうであろう」と納得できるものが、ありますね。

(ウツボ)もちろん、このような描き方の戦記は他にもあるのですが、いずれも人間の真実を追究していく姿勢が感じられて、それがとても貴重に思えるね。

(カモメ)本当に、そうですね。

(今回で「戦争と文学・陸軍」は終わりです。次回からは「戦争と文学・海軍」が始まります)









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最終更新日  2015.07.20 10:33:28


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