町のホルモン屋さん　山田ホルモンの若旦那

前日は10時に就寝。朝3時起床。夜逃げをするように家を飛び出す。正月に仕事の事情で帰れなかった若女将の実家に向けて一路米子へと出発した。1泊2日の短い旅路なのでなるべく現地での時間を有効に使用する為、車で米子に向かう予定である。去年も車で米子まで行って来たので大体何処のPAで休んで何処のSAで食事を済ませる等の予定は立っていた。

車を走らせること30分。若女将のメールが鳴った。こんな夜中に誰からのメールだろ？といぶかしげに見ていると、米子のお義父さんからのメールだった。

…米子は今、猛吹雪なのでチェーンを持って来なさい…

私はこの3月中旬、春めいたきたこの季節に雪が積もるとは想像もしてなかった。そういえば家を出る時間帯、すごく寒いなとは思っていたのだが…

下関を過ぎて小郡を過ぎた頃、車の車外温度計は－3℃を指していた。しかも吹雪。道路は時折薄くしらずんできた。これから中国道に入るとますます雪がきつくなるだろうと予想した私達は、急遽山口ICで降り小郡の新山口駅に引き返した。車を置いて、特急で米子に行く経路に旅程を変更した。

電話でお義父さんに伝えると、

…そうやな。それが一番ええ～選択やな

…これでわしもゆっくり寝れるわ…　　と安堵している様子である。

問題はユン坊である。数日前から授乳を絶ち、イライラしているので、5時間に渡る車中が心配である。ほとんど一日中泣きっぱなしであったが、昨日から一転して気分が回復している。実は秘策があったのだ。ユン坊の寝起きにりんごジュースを一口二口飲ませるのだ。寝ぼけているし一晩中水分をとってないのでりんごジュースに飛びつく。そのままの勢いでミルクを口に含ませると、寝ぼけてミルクを飲んだのだ。しかしこの作戦が2度３度成功するのかどうかは未知数である。

電車に乗って数時間した時、いつものようにぐずり出した。電車にはたくさんをお客さんが乗車していたのでぐずり出したら迷惑である。若女将は予め作っておいたりんごジュースを口に含めて、素早くミルクに替えた。するとミルクを飲み出したではないか。200cc完食（完飲？）もうほとんど問題はないだろう。

電車の中でもぐずることなく、おとなしく過ごしたユン坊家族は米子に降り立った。迎えに来ていたお義父は嬉しそうに抱きかえると、「あんまり、人見知りせんな…」と嬉しそう目を細めた。普段は結構人見知りをするのだが、数ヶ月前に会ったお義父さんを見て泣くこともなかった。

米子は10センチ程度積もっていたが、市内は雪の影響もなく車もジャンジャン走っていた。しかし大山は2メートル近くも積雪があるというので、やはり車で来るには何箇所かは道路規制やチェーン規制があっただろう。車から電車に換えたのは妥当な判断だった。

家に着くとお義父が、

「最近コーヒーにはまっていてな、お義父さんが作ったモコ美味しんやで!!」

「モコですか…はい頂きます!!」（お義父さんがはまるくらい美味しいモコとはどんな味なんだろう…）

と、思っていたらすかさず若女将が

「お父さん、モコって何なの？モカの間違いじゃないの？」

と、するどいつっこみを入れた。

「あ～そうや、そうやモコじゃのうて、モカじゃあ。」と一同爆笑しながら雑談を終え、食事に向かった。

「米子の朝日町ゆうたら、山陰ではちょっとした飲み屋街なんじゃ。」とお義父さんの解説を聞きながら朝日町にある焼肉屋さん『一八』に向かった。路地の中にある、あまり目立たない店だが、店に入ると阪神タイガースの選手やら大リーグのイチロウや松井の写真が並んでいる。この店の息子さんが極真空手の有名な方でその人の縁で有名人が集まるというのだ。

味の方はというと、なかなか旨い。焼肉屋さんの『バラメーター』である、カルビもいいものを使っている。『ホルモン』はやはり、当店でいう『丸腸』が出てくるし、ミノも上ミノが出てきた。お義父さんの行きつけの店ということもあり、いろいろサービスをしてくれたので居心地もよく美味しく食事ができた。

本当はもう一軒飲みに行こうかと準備をしていらっしゃったのだが、あまりの寒さに家に帰り就寝することにした。ユン坊もミルクに慣れてりんごジュースがなくても、ミルクをグビグビ飲むようになった。一日の旅を終えた若旦那家族は3人揃って川の字でぐっすり眠りに入った。