NHKの時代劇テレビドラマ「桜ほうさら」を視聴して
宮部みゆきの『桜ほうさら』(PHP研究所、2013年3月)を原作とする時代劇ドラマ「桜ほうさら」が今年(2014年)1月1日にNHK総合で放映されました。私は、これまでに視聴した宮部みゆきの小説を原作とするテレビドラマはほとんど全てと言っていいほど先に原作を読んでから映像化された作品を視て来たのですが、今回のNHK時代劇ドラマ「桜ほうさら」は原作を未読のまま今年の正月に視聴しました。なお、このテレビドラマのあらすじは、NHKの同番組の公式サイトにはつぎのように紹介されていました。「賄賂を受け取ったという、身に覚えの無い罪を着せられ切腹した父の汚名をすすぐため、江戸深川で長屋暮らしを始めた若侍・古橋笙之介(玉木宏)。/田舎者のお人好しで、からきし剣の弱い笙之介が、個性は強いが情に厚い江戸の人々に助けられながら、父とまったく同じ筆跡の偽文書を作った犯人捜しに、江戸の町を奔走する。/笙之介は、桜の化身とも言うべき謎の女性・和香(貫地谷しほり)と出逢い解決の糸口をもらう・・・」 このNHK時代劇ドラマは、脚本は大森美香、演出は片岡敬司で放映時間がコマーシャルなしで88分というもので、江戸深川辺りの風景がとても丁寧に描かれており、長屋暮らしの貧乏浪人で気弱な古橋笙之介(玉木宏)と顔にあざがあるためにひっそりと家に籠って生きて来た和香(貫地谷しほり)との純愛ドラマとしてもしみじみとした情感があり、さらに江戸時代を舞台にした時代劇ミステリードラマとしても非常な意外性があり、ドラマの展開に自然と引き込まれて視続けておりました。 なおミステリードラマとしての意外性と言えば、出演者で強く印象に残ったのが風間杜夫が演じた押込御免郎と北大路欣也が演じた搗根藩の江戸留守居役の坂崎重秀であり、また笙之介の兄の古橋勝之助を演じた橋本さとしでした。 押込御免郎は飲んだくれの貧しい読み物作家ですが、よほど悲惨な体験をしたのか世間の救いようのない醜い悪事ばかりを赤裸々に描いています。彼は自分の書いた読み物を深川で書物問屋をしている村田屋治兵衛(六角精児)に持ち込みますが、村田屋はそのままでは酷過ぎて売り物にならないと判断して長屋暮らしをしている古橋笙之介(玉木宏)に手直しを頼みますが、そんなことから古橋笙之介と押込御免郎という世間に対する見方が全く異なる二人が知り合いになります。しかし古橋笙之介と押込御免郎との間には両人とも知らなかった意外な関係があったのです・・・。 北大路欣也が演じた坂崎重秀は、搗根(とうがね)藩の江戸留守居役ですが、笙之介の父親の古橋宗左右衛門(桂文珍)が身に覚えのない賄賂の罪で切腹した事件の再調査のため、笙之介を江戸に呼びます。しかしこの人物が古橋宗左右衛門の賄賂事件の再調査をその子の笙之介に命じた意図には隠された意外な目的があったのです・・・。 橋本さとしが演じた笙之介の兄の古橋勝之介は、搗根藩の道場の師範代をしていた剣の達人で、「搗根の麒麟児(きりんじ)」と呼ばれた人物ですが、搗根藩の小納戸役という小身身分の古橋宗左右衛門を父親としたことに出世の限界を非常に感じており、ギラギラとするような自負心と出世欲の持ち主ですが、父親の賄賂事件に意外な関わりを持っていたのです・・・。 このような人物たちの織りなすミステリアスな関係がとても興味深い時代劇テレビドラマでした。