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2005年04月22日
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 ある議員、一年生だが、議場で大いに弥次《やじ》った。声が徹底し、まことに元気がよろしい。その党の幹部が感心すると、
「何しろあいつは、野球ファンなのでね」
 野球大流行、まことに子供の間に著しい。子供は野球のことなら何でも知っている。野球のことよりほか知ろうとしない。自分たちの知っていることを知らぬから先生を軽蔑する。子供たちの信頼と尊敬とを得たい先生は、新聞の運動記事を真っ先に熟読する。
 早慶戦、君はどっちかねと尋かれる。どっちでもないと返事すると、不埓《ふらち》だという顔をされる。早稲田は私の母校だが、あんなものに勝っても負けても母校の名誉には関係あるまい。学生時代の早慶戦にも、私ばかりではなく当時のクラス仲間は、一人だって応援なんぞには行かなかった。もっともクラスというものはひねくれ屋の多い文科である。
 しかし今年はマッカーサー元帥までがメッセージを寄せているではないかという。大したことだ。がこんなことで元帥と意見を異にしたっていいだろう。私は大学生時代が学問よりも野球の勝負に眼の色を変えることに賛成しない。物事の順位を間違えると野球大学になる。
 元帥には元帥の信念とそして経験がある。オリンピックの委員長として、アムステルダム大会にアメリカ選手を引率して行かれた。スポーツ熱心はかねてから有名である。ウェストポイント陸軍学校でチームの一員だったと、あの中に述べられているが、後にその母校の校長になられたとき、まずスポーツを奨励した。すばらしい成果を挙げられた。その成果が今次の戦争のアメリカ陸軍の光栄の因をなしたのだとさえいわれている。日本人にも同じ成果を得させようというのだろう。だが違った土と違った空気の中で、果たして一つの種子は同じ実を結ぶものか、これが私の懸念なのである。
 私は私なりに、人生のフェア・プレイを重んずべき精神を会得している。その点でスポーツマン・シップも理解し得ていると自信する。がこれは決して野球に趣味をもったからの結果ではない。それなのに野球に熱狂する応援団がしばしばアン・フェアなのはどうしたことか? 相手方のエラーに歓喜の大拍手を送ったり、喚声を揚げて相手の心理の動揺を図ったり、ああいう空気の中から果たして、元帥のいわれるような「国家再建に役立つ偉大な道徳の力」が生れるか。どうも私には、精々が弥次専門議員を出すくらいのような気がしてならない。
 つまり私はマッカーサー元帥と日本人の野球熱の正体に対する見方が違うのである。
                                    (六・一七)





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最終更新日  2005年04月22日 02時08分53秒
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